観るのも演るのも日々是好日!

演劇界に生きる男の観劇記録

SPAC-静岡県舞台芸術センターで俳優やってます!

倉敷幼稚園→粒江幼稚園→粒江小学校→倉敷南中学校→総社南高等学校→大阪教育大学

関心あるモノ・コト = 演劇/LEGO/昭和歌謡からJ-POP/字を書くこと/フィギュアスケート鑑賞/温浴施設めぐり/乗り鉄/旅行/睡眠

  • 日本テレビ放送網株式会社『氷艶 hyoen 2025―鏡紋の夜叉―』@横浜アリーナ
    【2025/7/5 16:30〜19:25(途中25分間の休憩あり)】

    簡単に言うと、岡山に伝わるもうひとつの桃太郎「温羅(うら)伝説」を、アイススケートの世界でミュージカル化した作品。台本は末原拓馬氏、演出は映像でお馴染みの堤幸彦氏。

    温羅伝説というのは、吉備王国(桃太郎でいうと鬼ヶ島)と大和朝廷(桃太郎でいうと桃太郎と犬・猿・雉)の対立を描いていて、鬼(温羅)は悪者ではなく(渡来人という説もある)、大和朝廷が吉備王国を支配下にするために差し向けた刺客が、桃太郎にあたる「吉備津彦」と、犬・猿・雉にあたる3人の家臣…という、岡山人にとってはわりと馴染みのある物語。(今回はここに、「自分のなかの正義が逆転していく」要素も入れ込み、現代の社会情勢にも通じる世界観にアレンジがなされていた)
    これを、岡山出身の高橋大輔さんが演じ、しかも演劇としてスケートリンクでやるのだから、岡山人としても、フィギュアスケートファンとしても、まあ見逃せない。

    まず、LUNA SEAのギタリストでもあるSUGIZOさんの楽曲がとても良い。本作の世界観を見事に音楽面で立ち上げていた。サントラが売られていたら、間違いなく買っていたと思う。
    しかも、かなりの場面で、ギター、あるいは、ヴァイオリンを、舞台奥のバルコニー装置の上で生演奏し、もうほとんど裏の主役w
    カーテンコールではスケート靴を履き、ほかの出演者と共にリンク上へ。普通に難なく滑っていらした姿も良き。
    「呼ばれて来た大物特別ゲスト感」は皆無で、作品のコンポーザー、クリエーターとしての立ち位置感と作品への愛情に溢れており、SUGIZOさんが果たした役割はあまりに大きい。いやー、SUGIZOさん素晴らしすぎる。
    (出演者には、相当激ムズなメロディーを提供していたけれどw、皆、歌いこなせていたのもスゴい)

    照明は、もう少し演者を明るくしても良かった気もするけど、場面場面の雰囲気を演出するという点では、とても良かった。
    ぱっと見だとドローンのようにも見える、ワイヤーで吊られた球体のような無数のLEDライトが、蛍になったり、魂になったり。点き方や消え方もそれぞれの場面に合っていて。
    レーザービームも多用され、クライマックスでは火炎の特効もあり、音楽のコンサートやライブでは日常的な演出なんだろうけど、普段そういうものに一切出向かない身としては新鮮な体験w

    あと衣裳も、それぞれの役柄と衣裳がとてもマッチしていて、さらに演者も自分の衣裳を使いこなしていて、これまた良かった。中でも、犬(島田高志郎)・猿(田中刑事)・雉(財木琢磨)は色んなこだわりが衣裳から感じられ、素晴らしすぎた。
    メインの役だけでなく、アンサンブルや子役の出演者の衣裳もよく練られていたと思う。
    当然ながらスケートでなびくことも考慮されており、立っていても、動いていても、絵になる衣裳。

    インパクトのある登場退場には、フライングの演出。
    ただし、僕が観た回は、後半からはフライングの演出が取りやめになったもようで、増田貴久さんや高橋大輔さんのフライングは見られなかった。
    オペラグラスで見ていた限りでは、吉田栄作さん演じる影帝がフライングでの退場予定のとき、アンサンブルメンバーが吉田さんのハーネスにワイヤーを付けるのに手こずり、結果的に付けられず退場を急遽変更したように見えた。(衣裳をしきりにゴソゴソしていたので、ワイヤーを引っ掛ける所が見つからなかったのかも)

    出演者も総じて適材適所というか、もはやスケーターと俳優の差がほとんど気にならないレベルで、「演技の上手いスケーター」と「スケートの上手い俳優」が共演。

    吉備津彦役の増田貴久さん(まっすー)は、歌が文句なく上手いのは当然ながら(NEWSが3人になるくらいまではわりと拝聴していた)、スケートも、バックで滑ったり、急ブレーキをかけて身体の向きを変えたり、わりとスピーディーに滑ったりしていて、元々器用だったり、身体感覚が優れているところもあるんだろうけど、努力家なんだろうなと思えた。
    相手役となる温羅役の高橋大輔さん(大ちゃん)との、バランスや相性が良かったのも大きいかも。
    役柄上、饒舌に喋る設定ではないが、役柄の持つ悲哀みたいなものが身体から感じられ、歌声がちょっとかすれ気味な感じなのも役柄に合っていた。(役作りでかすれさせていたのか、乾燥で不本意にかすれてしまったのかは分からないけど)
    ちなみに、まっすーがアリーナの客席通路を歩きながら歌う演出があり、目の前に現れたまっすーを、驚きで口に手を当てて目を丸くして見ている観客(おそらく、まっすーファン)の様子も、ついオペラグラスで観察してしまったw

    一方の大ちゃん(トリノ五輪の選考くらいから大体のプログラムはテレビで拝見してた)、身体表現や表情、歌声(ソロ歌唱やまっすーとのデュエットも)、言葉にならない叫びなどは、文句無かったのだけど、いかんせん発声が厳しい。
    全体的にちょっとゴニョゴニョ喋りがちというのもあるかもしれないけど(元々滑舌はあまり良い方ではないと思う)、マイク付けてるのに声が聞こえない(拾えない)のは、おそらく、息が相当漏れてるというか、「全部の息を音声化に使えていないのでは?」という感じ。(あれだけ滑るのだから肺活量には問題ないと思う)
    長セリフがあったのもかえって悪目立ちしてしまった感もするし、「心優しい役柄=穏やかに喋る」みたいになっていたのも一因かも。
    たぶん本人の資質的に、今回みたいな「シリアスで、しかも鬼と化して葛藤するような役柄」ではなく、明朗なキャラクターの役のほうが合ってると思うんだよね…

    温羅の理解者である八雲役の福士誠治さんは、これまでのキャリアで培った実力をいかんなく発揮で、抜群の安定感。こういうステージでのセリフの発し方や聞かせ方も心得ている感じだし、スケートも普通に滑れるし、歌もいい。(もっとブレイクしていい存在なのに!)

    八雲の妹で、温羅の婚約者である阿曽媛(あぞめ)役は森田望智さん。中学生になるまでフィギュアスケートをやっていたそうなので、滑りは問題なく、なんなら大ちゃんとアイスダンス的なデュエットを披露するほど。
    惜しまれるのはセリフ。大ちゃんと同じく、吐息と一緒にセリフを喋りがちで、彼女の持ち味である柔らかい感じの発声が、まだ舞台向きではない感じ。
    だから大ちゃんとふたりのシーンだと、ふたりの雰囲気は良いのだが、語られている内容は漠然としか伝わらず…もちろんマイクは付けているのだが、吐息系の発声との相性は良くなく…

    雉こと留玉臣命(とめたまおみのみこと)役の財木琢磨さんもたいへん良かった。中性的なキャラで、吉備津彦の家臣のリーダーポジションで、観ていて飽きないというか、もっと観たくなる存在。
    演じ方がワンパターンにならないところが良い。セリフも明瞭だし、所作もキレイ。どことなく福士誠治さんっぽい感じ…というか、この役が少し福士さんっぽいのか。(福士さんが演じても違和感ない)

    その財木さんの影響か、犬こと犬飼健命(いぬかいたけるのみこと)役の島田高志郎さんと、猿こと楽々森彦命(ささもりひこのみこと)役の田中刑事さん、このふたりの演技はスケーターの域を超えており、こんなに演じられると思っていなかったので、意外性もあってとても良かった。
    キャラクターを演じるのはもちろん、セリフも棒読みではなく聞き取りやすく(セリフに限って言えば大ちゃんより全然良い)、コミカルもシリアスもイケる。

    温羅の家臣、千秋(せんしゅう)役の青山凌大さんも好演。歌声も聴かせるし、滑りも魅せてくれた。
    なお、朝ドラ『虎に翼』では森田望智さんの息子・直人役だったので、朝ドラファンにはたまらないキャスティングw

    影帝の吉田栄作さんは、それほどは滑らなかったものの、まさかのソロ歌唱あり。しかもこれが、わりと難解なメロというか音取りで、「ラップか?」みたいな、演奏と歌が合っているのかズレているのか、よく分からないような楽曲。(たぶんズレてはいないw)
    歌手デビューからしばらくの間、CDを買っていた身としては、「まさか栄作の歌声をここで聞けるなんて!」という思わぬ感激ポイント。

    祈り女こと幽(かすみ)役の村元哉中さん、セリフは無く、白く発光する球体を持って、鎮魂しながら滑る。
    そういえば、如月小春作品に、こんな存在の、白い人が登場してたっけ…なんて思ってみたりw

    荒川静香さんは、スピンとかイナバウアーなども披露。最終的には大ちゃんを襲うような役柄で、いわゆるラスボスのひとり。戸田恵子さんの録音セリフに合わせて口パクするという、いわゆる「二人一役」的に言うとムーバーポジションで、別に口は動かさなくても成立するのに…とは思ったけどw
    あと、トリノの代表ふたりが20年後にこんな形で共演してるなんて…という、別の感動も。

    もうひとりのラスボス、闇呑神(やみどんのかみ)の市村正親さんは映像での出演。さすがの存在感なのだが、映像演出のせいか、いかんせんかなりクドい。(舞台演技をテレビで見る感じに近い)
    あんなに顔のアップを長々と投影し続けなくても良いだろうに。どうしたってモニター映像のほうが、リンク上の演者より大きいので、ずっと映し出されているとちょっと食傷気味に。

    まあそもそも、今回、映像演出はイマイチというか、大河ドラマのCG処理とかに比べると少し大雑把な(荒い)印象で、ほかの演出に比べて細部が若干チープだったかも。(予算か時間が足りなかったのかな?と思ってしまう感じ)

    グッズ売り場の「入国審査のパスポートコントロール」みたいなシステムとか、休憩時の女性用トイレ待ちの半端なく長蛇の列とか、館内の自販機の強気な値段設定とか、一目でまっすーファンと分かる「ネコます(まっすーの創作キャラクター)」を身に着けた人たちとか、初・横浜アリーナの身としては、色々と初めて目にするような光景も多く、実に興味深かった。(おかげで、空き時間についウロウロしてしまったよねw)

    そんな感じで、フィギュアスケートの現場にも、横浜アリーナにも行ったことがないのに、軽い気持ちだけで今回来てみたのだけど、なかなかどうして、見応えのある立派なステージに仕上がってた。
    フィギュアスケートファン、増田貴久ファン、SUGIZOファン、その他の出演者ファン、演劇ファン、それぞれが、推しの新たな一面を知り、推し以外の出演者の素晴らしい一面を知り、相互に自分の推しを誇りに思え、相手の推しを尊重できるような、そんな企画になっていたと思う。
    チケット代は高かったけれど、それだけのものは観られた。(ひとつの場面からの情報量がさすがに多すぎて、全ての要素を1回で咀嚼しながら観るのは大変だったけど)


    日本テレビ放送網株式会社
    『氷艶 hyoen 2025―鏡紋の夜叉―』
    脚本:末原拓馬(おぼんろ)
    演出:堤幸彦

    温羅:高橋大輔
    吉備津彦:増田貴久
    鉄の女神:荒川静香
    八雲:福士誠治
    幽:村元哉中
    楽々森彦命:田中刑事
    犬飼健命:島田高志郎
    留玉臣命:財木琢磨
    千秋:青山凌大
    阿曽媛:森田望智
    影帝:吉田栄作
    [スペシャルゲストアーティスト]演奏:SUGIZO
    [特別映像出演]闇呑帝:市村正親
    [特別音声出演]鉄の女神:戸田恵子

    アンサンブルスケーター:松橋浩幸、橋本誠也、小沼祐太(Prince Ice World)、吉野晃平(Prince Ice World)、松浦功、塚本啓司、大島光翔、木科雄登、佐々木晴也、佐藤由基(Prince Ice World)、門脇慧丞、小田垣櫻、西田美和、中西樹希(Prince Ice World)、占部亜由美
    アンサンブルキャスト:亀井翔太(BLUE TOKYO)、大舌恭平(BLUE TOKYO)、有木真太郎、松岡歩武(TOK¥O TRICKING MOB)、藤田朋輝(BLUE TOKYO)、松田陽樹(BLUE TOKYO)

    丹羽遥珂、日髙晴久、藤本東馬、渡邊由良

    音楽:SUGIZO
    クリエイティブ・ディレクター:モモナガシマ
    振付・所作指導:尾上菊之丞
    振付:宮本賢二、村元哉中
    ステージング:生島翔
    振付(尾上菊之丞)助手:五條珠太郎

    「氷艶」ネーミング:坂本愛
    「氷艶」題字:平野静暁

    演技指導(スケーター):福士誠治
    スケートアドバイザー:薄田隆哉
    スケート指導(俳優):橋本誠也、小沼祐太(Prince Ice World)
    歌唱指導:長谷川開、潤豊

    衣裳デザイン:三浦洋子(アトリエ88%)
    衣裳製作進行:堀内真紀子、川島加菜果
    衣裳製作:堀内真紀子、中埜愛子、金子里華、泉田まゆみ、春木里華、佐藤瑤子、梅津佳織、上原絵里奈、中川明香、加藤澄江、鶴岡真奈美、塚本かな、富永美夏、アトリエ88%
    ヘッドドレス:金子里華
    染色・テキスタイル:三浦洋子
    衣裳進行:梅田和加子、伊藤優理、種本依里子、近藤知子、懸樋抄織、小林瑞穂、大窪真
    衣裳協力:小川峰株式会社、サトーサンプリングルーム、サンプリーツ、STP factory、羽美
    髭協力:プロピア
    スパイクシューズ:SECESSION

    アートディレクション・デザイン:原島直子 (RAM)
    ヘアアーティスト:INOMATA, KOO SATO(&’s management)
    メイクアップアーティスト:Mio (SIGNO)、sachi
    ヘアメイクアップアーティスト(アンサンブル):栢木進
    ビジュアル制作コーディネイト&マネジメント:稲冨美紀 (SECESSION)

    映像ディレクター:髙橋洋人
    音楽制作プロデューサー:茂木英興
    音楽制作協力:植田能平
    マニュピレーター:d-kiku
    舞台美術ビジュアルデザイン:小林直貴(日本ステージ)
    照明プランナー:高橋邦裕(東京舞台照明)
    音響デザイン:佐藤日出夫、中尾憲嗣(SCアライアンス)
    映像協力:ジャパンアクションエンタープライズ
    収録技術:小林宏義、船越正道、佐々木賢(日テレ・テクニカル・リソーシズ)

    演出助手:竹内彩(H9 plus)、松森望宏
    舞台監督:神力謙(MOMOX)
    舞台監督補:柏本詩帆、渡邉野乃花、田中倫子、山田和希、並木勝道、三川順、片山徳三、斎藤幹
    舞台制作:田島大志
    舞台制作補:中林彩
    衣裳制作進行:吉元あおい、茶畑由紀、小野涼子

    アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太
    アクションコーディネーター助手:東慶介、宮川連
    フライングコーディネート:B.O.S-FLYING
    フライングコーディネーター:下川真矢、岩上弘数

    スケートリンク設営:パティネレジャー
    トラス施工・美術:日本ステージ
    会場設営、装飾、備品:パンセイ
    映像制作・出力:レイ
    PREVIS:team VisCOM
    小道具:高津装飾美術
    照明:東京舞台照明
    DOTIMAGE:ISA
    音響・音響効果:SCアライアンス
    レーザー:FUN WINGS
    フライング:B.O.S-Entertainment
    マーカーライト:新光企画
    特殊効果:HOTSHOT
    トランポ:SCUD Inc.
    電源:三穂電機

    製作協力:福冨薫(オフィスクレッシェンド)
    制作協力・運営:徳永美樹、岡野孝宏、大木武史、小田遥香、 内田夕香子、江口航平(セイムトゥー)
    制作協力:吉越萌子、児玉奈緒子(MAパブリッシング)、山内未央、間宮春華、長浜あかね
    リハーサル協力:エフ・オー・ビー企画
    警備:協栄

    主催:日本テレビ放送網株式会社(関川悦代、遠藤正累、松村英幹、福井雄介、錦織早都美、関谷亜希、片山知香子/澤桂一)
    主催・企画・製作:株式会社ユニバーサルスポーツマーケティング(豊原絵梨子、間瑛子、大濱航至、原田雄介、大橋加苗)
    後援:公益財団法人日本スケート連盟
    特別協賛:日本郵政株式会社
    協賛:スカイコート株式会社、株式会社アペックス

    2025年7月5日〜7日 横浜アリーナ

  • iaku『はぐらかしたり、もてなしたり』@シアタートラム
    【2025/7/4 19:00〜20:45(途中休憩なし)】

    横山拓也氏による作・演出のiakuの新作公演は、狭い人間関係での様々な恋愛模様が描かれ、チラシで「ラブコメディー」と銘打っているのだが、恋愛モノと言うよりは、「ひと癖ある人たちしか登場しない、恋愛要素も含んだ人間関係の悲喜こもごも」と言ったところ。
    ある意味ではだらしなくもあり、ある意味では煮え切らない、ダメダメなんだけど憎めない、そんな人たちばかり。

    鈴木勇(瓜生和成)と鈴木鈴香(竹田モモコ)の、妻の家出による別居状態な夫婦関係を軸に、一人娘・愛(高橋沙良)と梨伊雅[りいが](井上拓哉)による若い二人の恋の始まり、勇の元妻・晴野充(小林さやか)とその部下・蔵田(近藤フク)による年の差恋愛、鈴香の友人・真美(異儀田夏葉)と真美の死んだ友人・智子の夫の浩輔(富川一人)のこれから進展しそうな関係、などが同時進行的に描かれていく。
    ここに、鈴香の2年間家出していた具体的な真相(元上司の介護・看取りのためだったのだが、周りは勝手に元上司を男性と思い込んでいたが実は女性だった、とか)や、妻が家出中に勇と充が復縁して不倫関係にあったとか、生前の智子が蔵田と浮気していた、などの新事実も判明していき(観客にのみ明かされるものと、登場人物たちにも知らされるものとに分かれる)、かなり複雑な関係となっていく。

    この複雑極まりない関係を、面白味を交えて、しかも分かりやすく物語を紡いでいける横山氏は、やはりさすがである。客席も、後半になるに従って笑いが起き、前のめり気味で観ている客も多かった印象。(観客はまさしく老若男女という感じで、客層の幅広さもiakuの特徴かも)
    ただ、(iakuにしては)わりと性を感じさせる生々しい描写がいくつかあり、その意味では大人向けかも。

    僕がiakuに「良いなあ」と思っている部分は、「少しだけ突飛な設定なのに、妙に現実に起こりそうな説得力がある感じ」や「極めて演劇的な演出手法で演技もリアリズムとはまた少し違うのに、とても現実味が感じられるところ」なのだが、ただ今回は、そのバランス感覚が少しだけ不均衡に感じられてしまった。
    ちょっとあざと過ぎた感じもあり、「物語」としてのフィクション性・ファンタジー性が勝ってしまったかも。

    たとえば、梨伊雅が本を読んでいる設定なのだが、そこで語られる内容は舞台の進行(誰かの物語)になっていて、要は、梨伊雅が物語を外から見ているストーリーテラー的な役割にも見えるのに、一方で物語そのものにも登場人物として関わっているので、「え?じゃあ彼が読んでる本は何なの?」と思ってしまったり。

    あと、僕は、周りの観客ほどには笑えなかったのだが、それはきっと、登場人物たちがひどく気の毒に見えたというか、笑って済ますのが憚られるというか、そんな感覚だったからかもしれない。(勇が元妻と(最終的には再び別れたけど)寄りを戻してたこととか鈴香は知らないままだし…)

    とは言え、出演者はそれぞれにキャラクターの具現化が上手く、座組的にも良い組み合わせだと思った。

    真美役の異儀田夏葉さんが醸し出す、気風の良さと、セリフ感皆無の嘘のないセリフは相変わらず良かったし。
    あまりに独特な人間性である蔵田役の近藤フクさんも、多くの観客の印象に残ったと思う。あの間の取り方と、人を馬鹿にしたような言い回し(褒め言葉)は素晴らしい。
    浩輔役の富川一人さんの、欲望を理性で抑えているようなキャラや、周囲の人たちからの振り回され具合も素敵。(今回わりと共感できた役は浩輔かもしれない)
    梨伊雅役の井上拓哉さんの、無垢で真っ直ぐな、眩しい感じも良かった。(どこかで見たことがあると思ったら、『虎に翼』の寅子の同僚裁判官!)

    また、セリフ中でしか出てこない、鈴香が看取った元上司と、浩輔の死別した妻・智子、このふたりの存在感が結構大きく、登場しないけど印象に残る。
    存在感と言えば、「オムライス」「巻き寿司」「コンビニ限定スイーツ」もw(観てないと、何のことだか全く分からないだろうけど)

    舞台装置はスキップフロアを組み合わせたような、おしゃれな抽象セット。それぞれの場での使い方や設定が、巧みで見事。階段が多いので、出演者の運動量は地味に多そうではある。


    iaku
    『はぐらかしたり、もてなしたり』
    作・演出 横山拓也

    鈴木勇 瓜生和成
    鈴木鈴香 竹田モモコ
    鈴木愛 高橋紗良
    真美 異儀田夏葉
    浩輔 富川一人
    梨伊雅 井上拓哉
    蔵田 近藤フク
    晴野充(蔵田の上司) 小林さやか
    声の出演 伊藤えりこ

    舞台美術 柴田隆弘
    照明 葛西健一
    音楽 山根美和子
    音響 星野大輔
    衣裳 中西瑞美
    演出助手 須藤黄英
    ドラマトゥルク 上田一軒
    演出部 伊藤えりこ
    舞台監督 青野守浩
    舞台美術助手 白坂奈緒子
    音響オペ 堤ゆりえ
    照明オペ 久津美太地
    宣伝 吉田プロモーション
    宣伝美術 下元浩人(EIGHTY ONE)
    宣伝写真 井手勇貴
    宣伝ヘアメイク 田沢麻利子、高橋のりこ
    舞台写真 木村洋一
    映像収録 堀川高志(kutowans studio)
    鑑賞サポート 舞台ナビLAMP(音声ガイド 藤井佳代子/バリアフリー字幕作成 浅井由美子)
    制作協力 吉乃ルナ、三國谷花、中川拓也、市川羽菜、米田マナ海
    アソシエイトプロデューサー 渡辺信也(TBSテレビ)
    ラインプロデューサー 笠原希

    協力 エンパシィ、大沢事務所、オフィスPSC、小松台東、トローチ、ニベル、劇団はえぎわ、ばぶれるりぐる、ファザーズコーポレーション、ペンギンプルペイルパイルズ、吉住モータース、ワタナベエンターテインメント

    提携 公益財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター
    後援 世田谷区
    主催 一般社団法人iaku
    助成 文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))、独立行政法人日本芸術文化振興会

    2025年6月27日〜7月6日 シアタートラム
    2025年7月12日・13日 吹田市文化会館メイシアター 中ホール
    2025年7月20日 四日市市文化会館 第2ホール
    2025年8月2日・3日 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース

  • 名取事務所『燃える花嫁』@岡山芸術創造劇場ハレノワ 小劇場
    【2025/6/24 19:00〜21:10(途中休憩なし)】

    川口市に生きるクルド人の現実に着想を得た、「そう遠くない未来の日本の、移民問題」を描いた作品。(ちなみに、「日本に着いたらワラビのマックに行け」という合言葉があるらしい)

    「テロ」「難民と移民」「共生」「差別」「出自とアイデンティティ」などが盛り込まれた骨太な社会派作品で、外国人労働者としてやって来た人たちだけでなく、子世代の「厳密には日本国籍ではないが、もはや日本しか知らない世代の、でも外国人扱いされてしまうような人たち」も描かれている。このあたり、戯曲では直接的に描かれてはいないが、いわゆる「在日」と呼ばれる人たちにも通じる部分かと。
    また、移民側の視点もかなり盛り込まれ、特に「なぜ日本に来たのか」の理由が切実で、彼らが母国について語る場面によって、作品の深みがグッと増した気がした。
    現実でも、「日本に憧れを抱いて母国から逃れるようにやって来て、でも実際はそんなに甘くなくて、でも国に帰ることは考えられなくて、行き場を失い、しがみつくように日本で暮らしている」…そんな人たちもきっと多いのだろう。

    重苦しくなりすぎないよう、ポップな演出や、コミカルなやり取りも挟み込みつつ、でもガツンとやるところはガツンと斬り込む、そんな作品だった。
    観客に宿題を色々と持ち帰らせるような作品でもあり、「移民国家」となるであろう日本に向き合う「覚悟」について、そして、「彼らとどう共生していくのが良いのか」、「彼らと我々と何が同じで何が違うのか」、そんなことも考えさせられてしまう作品でもあった。

    ただ、主人公でもある、移民のユウスケ(みのすけ)が捕らえられたあたりからの戯曲の書き込みが少し飛び飛びの印象で(結果的に、さらに10年後まで飛ぶ)、ラスト近くで、母国でのテロで死んでしまったマキ(森尾舞)が魂としてアカリ(平体まひろ)の元へ戻って来たファンタジー設定とか、アカリの叔母でありユウスケの姉であるカナエ(鬼頭典子)が派手な装いになってるのは民族衣装なのかとか、いい加減だったあのノリオ(山下瑛司)がどうやってミスドの店長に就いたのかとか、分かりにくい所もあり、そこは想像で補うにしても、物語が端折られてしまっているようにも感じられて少しもったいなかったか。

    一方で、タイトルの「燃える花嫁」の回収の仕方が絶妙で、「何気ないプリクラの場面での花嫁姿が、そこに繋がってくるのかー」と感心。

    出演者のなかでは、テロリストの肉体派な側面を持ちつつも、周囲に強要して仲間に引き入れるようなことはせず、慕われる姉さん的存在でありながら同時に孤高の存在でもあるマキを見事に体現していた、森尾舞さんが文句なく良い。
    そして、マキとは違う方向性での姉さん的存在の、カナエ役の鬼頭典子さんも良すぎた。さすが文学座。
    なかでも、マキとカナエが母国のことを語り合う場面は、その語り口だけで、2人の幼かった頃の様子がありありと浮かんでくる良い場面。(同時に切ない場面でもあるが)

    なお、本公演の企画発案者は、岡山芸術創造劇場ハレノワのプロデューサー・渡辺弘氏らしく、それを名取事務所の名取敏行氏がプロデュースする形で、脚本をピンク地底人3号氏に、演出を生田みゆき氏に依頼したようだ。
    その意味では、岡山公演こそがメインの公演会場とも言える。(ということを当日配布のパンフレットで知ったのだが)

    来年の10月には、名取事務所×横山拓也で「移民」シリーズの第二弾が上演されるもよう。見逃せない。


    名取事務所公演
    『燃える花嫁』
    作 ピンク地底人3号
    演出 生田みゆき

    出演
    キリノアカリ(ユウスケの娘) 平体まひろ
    キリノユウスケ(アカリの父/キリノ工業社長) みのすけ
    キリノカナエ(コウスケの姉/アカリの叔母) 鬼頭典子
    近藤健人(拓也の父/近藤工業社員) 清水明彦
    近藤拓也(健人の息子/従業員) 西山聖了
    筒井昌美(弁護士) 松本紀保
    サカモトノリオ(従業員) 山下瑛司
    ミドリカワマキ(トラック運転手) 森尾舞

    美術 杉浦充
    照明 桜井真澄
    照明操作 廣田恵理
    音響 藤平美保子
    音響操作 北野さおり
    衣裳 樋口藍
    擬闘 栗原直樹
    演出助手 岩佐美紀
    舞台監督 八木澤賢
    宣伝デザイン 柳沼博雅
    制作担当 栗原暢隆、佐藤結、鍋嶋大輔
    企画 渡辺弘(岡山芸術創造劇場ハレノワ劇場長 兼 プロデューサー)
    プロデューサー 名取敏行
    製作 名取事務所

    協力 川口茂人、松本光史、今井優香里、(有)東京舞台企画、NPO舞台21、NPOグローバルプランナーズ、オフィスK2、有限会社マッシュ、株式会社シアター・ナインス、文学座、ももちの世界、NPO文化政策ネットワーク、NPO法人SSG、東京舞台照明、山北舞台音響、スタジオ・ポラーノ、株式会社ゴート、大澤広告事務所、(株)ワイズ

    2025年6⽉11⽇〜15⽇ 吉祥寺シアター【主催 有限会社名取事務所】
    2025年6⽉20⽇・21⽇ ロームシアター京都ノースホール【主催 ロームシアター京都(公益財団法⼈京都市⾳楽芸術⽂化振興財団)、京都市】
    2025年6⽉24⽇・25⽇ 岡⼭芸術創造劇場ハレノワ⼩劇場【主催 岡⼭芸術創造劇場ハレノワ、(公財)岡⼭⽂化芸術創造】
    2025年6⽉28⽇・29⽇ J:COM北九州芸術劇場⼩劇場【主催 (公財)北九州市芸術⽂化振興財団】

  • 2024/2025シーズン シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.2『ザ・ヒューマンズ―人間たち』@新国立劇場 小劇場
    【2025/6/18 14:00〜16:00(途中休憩なし)】

    スティーヴン・キャラムが描く、ある移民系アメリカ人一家の、感謝祭での団欒の物語を、桑原裕子氏の演出で。
    観劇回は地元高校生の演劇鑑賞回を兼ねていて、客席の大半を高校生が占めていたが、集中して、細かいところまで観ている生徒が多かった印象。

    ニューヨーク・マンハッタンのチャイナタウンにある、老朽化したメゾネット風アパートが舞台で、上階と下階はらせん階段(もしくは外廊下にあるエレベーター)で繋がる。上階が地上一階で、下階は地下階という設定。
    上階の窓には鉄格子があり、日当たりはすこぶる悪いのだが、その分、広さは抜群で、上階が玄関ホールとバス・トイレ、下階がリビング・ダイニングとキッチン(と奥まって見えない寝室?)という間取り。

    作品に散りばめられたモチーフとしては、「アイルランド系移民(感謝祭の祝い方もアイルランド風にこだわる)」、「認知症」「就職難」「うつ病」「病気の悪化による人工肛門」「同性愛」「過食症」「不眠症」「不倫問題」「隣人の騒音問題」「9.11」「差別問題」「難民問題」などなど。
    「それぞれがそれぞれに問題を抱えている」ということはとてもよく分かるのだが、解決策の糸口は見えてこないまま、不穏な空気をまとって終幕を迎える。
    ある意味では、(演技の質感的には普通のリアリズム風ではあるが)教訓や感動の演出のないドキュメンタリーを見ているようでもあり、テーマ的に刺さるところが無い観客の場合、「演技面における評価」以外では作品を語りにくい気もする。

    家族だけど、大半が、「家族に対して愛情を持っている反面で、家族に対して鬱陶しさも感じている」風にも見え、それぞれが互いの何気ない言動に対して、勝手に興奮したり、勝手に怒ったり、勝手に盛り上がったりと、忙しい家族w
    なので、「この人たち、どうやってこれまで暮らしてきたんだろう」「なんで、わざわざ家族団欒をやろうとしたりするのか」という疑問も。
    仲良かった家族が感謝祭を機にほころび始めるというよりは、もともと少しだけギクシャクしてた家族が感謝祭を機にさらにヒートアップした印象なのだが、でも決裂して終わるわけではなく、何となく「ま、いっか」的にウヤムヤなまま終わるので、「結局、何だったんだ?」感も残り…

    アメリカにおける社会構造やら様々な差別問題などが散りばめられていて、そのあたりが実感を伴って理解できないと、日本に住む者にはあまりピンと来ない戯曲なのかもしれない。

    全編を通して、平田オリザばりの同時多発会話が繰り広げられる瞬間が多く、しかも、相手が言い終わらないうちに喋り始める人が多いので、「対話する」というよりは「主張する」という感じで、「人の話を聞かない家族だなー」という印象w(「悲劇喜劇」に掲載された戯曲によると、原作がそういう風に書かれているようだ)
    のっぺり演出されるよりは、忙しなくサクサク進むほうが観やすくて良かったとは思うが、余韻を感じられる演出が施される瞬間がもう少しあっても良かったのかも。

    長女のエイミーを演じた、「南海キャンディーズ」のしずちゃんこと山崎静代さんが好演。体型とか声質が独特ではあるのだが、それが特異キャラになることなく、上手く役柄の個性として昇華されていて良かった。(エイミーという役柄自体が、ちょっと特異キャラの設定ではあるけど)
    電話の受け答えの演技も、おそらく一人芝居でやっていると思うのだが、反応とか、自分のセリフの遮られ方とか、めちゃ自然で、すごく勘が良い人なんだと思う。


    2024/2025シーズン
    シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.2
    『ザ・ヒューマンズ―人間たち』
    作 スティーヴン・キャラム
    翻訳 広田敦郎
    演出 桑原裕子

    エリック・ブレイク 平田満
    ディアドラ・ブレイク 増子倭文江
    エイミー・ブレイク 山崎静代
    ブリジッド・ブレイク 青山美郷
    「モモ」・ブレイク 稲川実代子
    リチャード・サード 細川岳
    年配の中国人女性 きし朱紗

    美術 田中敏恵
    照明 佐藤啓
    音響 藤田赤目
    音楽 久米大作
    衣裳 半田悦子
    ヘアメイク 高村マドカ
    演出助手 和田沙緒理
    舞台監督 川除学
    演出部 满安孝一、小山内ひかり、山中麻耶、平石尚子
    プロンプ きし朱紗
    大道具 東宝舞台(高畑七海)
    小道具 高津装飾美術(西村太志)
    電飾 イルミカ東京(堀加奈)
    衣裳 松竹衣裳(清水崇子、柿沼薫、井上裕子)
    履物 アーティス(中尾舞)
    観劇サポート イヤホンガイド、篠原初実、彩木香里(音声ガイド)、文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」

    舞台・照明・音響操作 新国立劇場技術部、シアターコミュニケーションシステムズ、アート・ステージライティング・グループ、フリックプロ、鈴木芳幸(舞台)、吉田信夫(舞台)、鈴木かおり(照明)、仲田竜太(音響)、 NAKADA Ryuta (Sound)、押井敏明(大道具)
    制作助手 坂井加代子
    制作 七字紗衣
    プロデューサー 伊澤雅子
    芸術監督 小川絵梨子

    主催 新国立劇場

    2025年6月12日〜29日 新国立劇場 小劇場
    2025年7月5日〜6日 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
    2025年7月19日 茨木市文化・子育て複合施設 おにクルゴウダホール(大ホール)

  • 第67回 静岡県中部高等学校演劇公演(静岡会場/15日のみ)@しずぎんホール・ユーフォニア
    【2025/6/15 13:00〜18:00(1校ごとに10分程度の休憩挟む)】

    清水南の上演を観劇するにあたり、せっかくなので同日の他校の上演も観劇。15日の静岡会場の5作品について簡単に感想を。

    13:00 静岡県立静岡東高等学校
    『ロマンティックがキマラナイ!』
    作・佐藤柚理子、伴野なつ美
    生徒創作の脚本で、やりたい事を詰め込んだ感じの作品なのだが、ちょっと統制が取れてないというか、仕上がりのバランスが「自己満足」の域で留まってしまっているのがもったいない。もう少し、創作の過程で顧問(もしくは大人の視点)が介入すれば良いのに(すでにしてるのかも、だけど)。
    冒頭からしばらく劇中劇が演じられるのだが、「演劇部の稽古」であることが明かされるタイミングがちょっと遅すぎるし、唐突な歌パート自体はまだ良いとしても、その歌の内容が聞き取りにくい&歌うことに照れが見える出演者がいるし、プロットに対して書かれている会話の練度が緩いというか書き込みが甘い感じだし、無駄な身振り・手振り・抑揚がとても気になるし、「劇中劇の男役を演じる男子演劇部員役(それを演じているのは女子部員)」みたいにジェンダー設定が複雑すぎるし。
    「もっとこうしたら良くなるんじゃない?」みたいなアドバイスが入るだけで随分良くなりそうな印象はあるだけに、全体的に惜しい。

    14:00〜静岡市立高等学校
    『新・下剋上大作戰』
    作・長谷川千夏
    スクールカーストを題材に、自分の居場所を見つけていく物語。顧問による当て書きと思われ、それぞれの出演者と演じるキャラクターがハマっているし、物語の筆運びもスムーズ。カースト上位の生徒と下位の生徒の違いが、もう少し明確だとリアリティが増す気がする。(下位の生徒たちが下位にラベリングされている説得力が弱いというか、言うほど地味に見えないというか、上位の生徒たちのキラキラ感が足りないというか…)
    教室の壁に見立てたパーテーションが、セッティングや取り扱いが楽そうで、でもチープにならずに空間づくりに貢献していて、良かった。
    やたらと正面を向いて会話をするのが気にはなったが、まあご愛嬌の範囲か。

    15:00〜静岡県立静岡城北高等学校
    『CLOSED』
    作・ダニエル藤井/脚色・静岡城北高校演劇部
    経営難で閉店し、明日、建物が取り壊される、海が見える喫茶店が舞台。そこにたまたまやって来て、結果的に閉じ込められてしまった人たち(女子高生、ヤクザの若衆、教師と教え子、喫茶店のオーナー)の一夜のドラマ。
    なかなか面白い筋書きだったのだが、動物たちが登場する劇中劇のプロットや、その劇中劇と本筋とのリンクの仕方が、個人的にあまりしっくり来ず。
    出演者は総じて手堅く上手い演技。なかでも、喫茶店のオーナー役の生徒は、派手さはないが、セリフの語り方が上手く、感情や感覚の乗せ方の匙加減が絶妙。声質も良き。

    16:00〜静岡県立清水南高等学校
    『天守物語』
    作・泉鏡花
    「宮城聰演出の『天守物語』の完コピ」ということで、演出はおおよそ宮城聰(直接の演出はしていないけど)。ただ、本家とはまた違う趣きもあるため、「完コピ」というよりは「カバーヴァージョン」というほうが近く、「完コピ」と自称することには少し疑問も残る。
    演技の技術面においては、他校より頭ひとつ抜きん出ているのは確かなのだが、清水南に関しては「演劇部」=「演劇専攻」なので、それを踏まえて比較するか否かで、評価が変わるだろう。個人的には、もっと実験的・挑戦的な作品のチョイスでもよかったような気も。
    図書之助ムーバーが、前髪で顔が隠れてしまっていたのが残念。

    17:00〜静岡県立静岡高等学校
    『このままでは終われない 〜空き巣注意報〜』
    作・新堀浩司/潤色・静岡高校演劇部
    廃部が決まっている上でのラスト舞台。新堀浩司氏の戯曲を劇中劇として使い、いまの自分たちの演劇部の状況をリアルに舞台化した作品。劇中劇部分のクオリティも悪くはなく、『空き巣注意報』だけを最後まで観てみたい気も。
    上演の大トリということもあり、静岡高校がこの日の実質的な主役で、「これで終わり」という「1回だけ使うことができる最後の切り札」を最大限に利用した舞台。絵づくり、演技、演出、どれをとっても平均レベル以上であり、弱小演劇部ならともかく(いや、それもどうかとは思うけれど)、彼らがどうして活動を諦めなくてはいけないのか、いろいろと本当に残念でしかない。

    ところで、同日に2会場で同時上演だとどちらかしか観られず、他地区同士ならまだしも、2会場とも「中部地区」なわけで、この方針が個人的にはスゴい違和感。
    いっそのこと、中部は2つ(コンクール参加派とノンコンクール派)に分けてしまって、もうそれぞれが独立して運営すればいいのに…と思ってしまうのだが、やはりそれは難しいのだろうか。せめて、6月公演くらい仲良く1つの会場で上演したらいいのに…


    令和7年度 静岡県高校総合文化祭演劇部門
    第67回 静岡県中部高等学校演劇公演


    主催:静岡県中部高等学校演劇協議会、静岡県教育委員会、静岡県高等学校文化連盟


    2025年6月14日(土)・15日(日) 島田市プラザおおるり
    2025年6月14日(土)・15日(日) しずぎんホール・ユーフォニア

  • ユニークポイント『59』@ひつじノ劇場
    【2025/6/14 19:00〜20:10(途中休憩なし)】

    地元小学生の少年野球チームの練習試合。応援スタンドとは別の、グラウンドから少し離れた木陰のベンチ席で繰り広げられる物語。(このベンチの色のハゲ具合が文句無く素晴らしい!)

    選手のシングルマザーの母親・夏川(実は夫とは交通事故による死別)、酒と野球が好きで足繁く少年野球を見に来ている近所のおじさん・シゲ(実は元高校野球の名将だったが暴力事件をきっかけに退職・離婚)、サウスポーピッチャーの少年の父親・木崎(離婚までカウントダウン別居状態で、妻は少年野球チームの監督と不倫の噂)、たまたまた通りがかったという余命わずかの男性とその妻(木崎には見えていない存在?)。

    少年野球の試合の実況中継を挟みつつ、並行して語られる、生と死、過去と未来、親と子、記憶と存在、後悔と希望、愛と祈り、こみあげる涙とこらえる涙…そして、井上陽水の「傘がない」。
    5人それぞれが、それぞれの傷と痛みを抱えており、しかし、それらと向き合いながら生きていこうとする、切なくも愛おしい姿が、優しい視点で描かれている。
    そして要所要所で、前触れなくハッとさせられるようなセリフが繰り出される。このあたりの匙加減も上手い。

    夏川(山田愛)とシゲ(ナギケイスケ)の素性については、ラストで明らかとなる(夏川はシゲの素性を知っているのだが、知らないフリをしていたことが明らかになる)ため、それを知った上でもう一度見ると、観客として受け取るものが変わってくる可能性大。
    特に夏川は、冒頭から抱えているドラマ(野球チームの保護者のアレコレや、夫のことや、シゲの素性など)が膨大で、「それらを背負った上であれだけ(観客から見ると)何事も無いかのように明るく振る舞っている」という設定がスゴいし、それを無理なく体現している愛さんもまたスゴい。実はなかなかの難役だと思うのだが。
    対するシゲも、「人生に対する投げやりさを見せつつも、やはり野球から離れずには生きていけない感じ」がよく出ていて、カップ酒もよく似合う。個人的には、役の年齢設定(ホントは老けている設定なのか、意外と初老ではないのか)が少し分かりにくかったのがもったいない気もしたが。

    余命わずかの男性役の古市さんは、登場時から、足の裏が地面から浮いているのではないかと思わせるような、文字通り「浮遊しているような」存在感で、確かにそこに居るのだが覇気が少し欠落しているような瞬間も垣間見せ、「人間の姿をした魂」感のスゴさ。
    目に涙を浮かべながらもギリギリ流すことなく、笑みを湛える何とも言えない表情も秀逸。

    これまでもわりと大人向けな作風が多かったユニークポイントだが、今回は、より大人のほうへ舵を切った印象も。今回の登場人物たちの悲喜こもごもは、(精神的に)40代以上くらいがドンピシャというか、若い世代にはそこまで実感として捉えられないのではないか、という気もする。
    逆に言うと、人生の折り返し(という表現が妥当かどうかはさておき)が見えて来た人たちや、親世代あたりに観てほしい作品かな、と。
    ユニポからの人生に対するエールのような、そんな作品だ。

    ちなみに、『59』は「5人の芝居+野球チームの9人」という説明が開演前にあったものの、深い意味は無いそう。
    ただ、しいて言えば、ある意味で「号泣」な作品であり、作演出の山田氏が好きな「素数(しかもスーパー素数)」でもあり、さらにこじつけるなら、「エンジェルナンバーにおける59」は、「人生の進む方向性が明確になり心が安定する」、「古いものを手放し、好きなものを大切にする」みたいな意味合いの数字なんだとか。
    うむ、ある意味、当たってる気もするぞw


    ユニークポイント『59』
    作・演出 山田裕幸

    シゲ ナギケイスケ
    夏川 山田愛
    木崎 古澤光徳
    男 古市裕貴
    女 西山仁実

    美術・照明 ナギケイスケ
    劇場ロゴ制作 新出睦(ememデザイン室)
    スチール 半田武祢夫
    受付 勝岡彩乃、鈴木桃子、神谷由紀子、中村美佳、鈴木恵、澤田明日花、鈴木由佳、葛谷綾子、あかり、さくら
    劇団スタッフ 河野悟、北見直子、水田由佳

    主催・企画・制作 一般社団法人ユニークポイント

    2025年6月14日〜16日 ひつじノ劇場

  • 2024/2025シーズン シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.1 ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー『母』@新国立劇場 小劇場
    【2025/5/28 19:00〜20:55(途中20分の休憩あり)】

    カレル・チャペックの戯曲を、彼の母国であるチェコの劇場の来日公演。
    以前に日本人による上演を観ていたので、話の展開や作品テーマは既知の上での観劇。
    (オフィスコットーネ版『母』の観劇記録はコチラ ↓ )
    https://www.facebook.com/share/p/1AqYtSLRo5/

    演出面では、書斎の棚をデフォルメしたような舞台装置が特徴的だが、その他の部分や演技面はオーソドックスと言えよう。「西洋の国立劇場の俳優による演技演出」というイメージから、大きく逸脱していない感じ…みたいな。手堅いというか、中庸というか。(その分、言葉や関係性を大切にしている、のだと思われる)
    5人兄弟の役の、俳優本人の年齢差が役柄とうまくかみ合ってないせいか、兄弟間の(役柄としての見た目の)年齢差が若干不自然ではあったw

    戦争という空気感を纏わせるのは、西洋の俳優のほうが確かに上手いし、妙な説得力もある。反面、彼らでなければ演れない作品か?というと、そこは少し弱い。
    一方で日本人版はというと、戯曲を読み解く力とか、作品をトータルでどう見せたいかというような「解釈」においては、日本版で観た時のほうが掴みやすかったように思う。

    今回はA席(サイドのバルコニー席)での観劇。舞台の一部が見切れるのは納得の上だったのだが、字幕の表示場所の設定が微妙で(舞台中央上部なのだが、舞台装置との干渉を避けるためか、少し奥のほうに吊られていた)、自分より前隣の人が少し前かがみになるだけで、もう字幕が見えなくなってしまった。
    内容を知った上で観ているからまだマシだったが、それでも、意味のわからない(しかもチェコ語!)セリフだけを頼りに長時間かけて舞台の展開を追うのは、なかなか辛いものがあった。
    (正直なところ、バルコニー席からの字幕の見え方がほとんど考慮されていない字幕位置だったと思われる。残念!)


    2024/2025シーズン
    シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.1【海外招聘公演】
    ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー
    『母』MATKA
    〈チェコ語上演/日本語及び英語字幕付〉
    作 カレル・チャペック
    演出 シュチェバーン・パーツル

    母 テレザ・グロスマノヴァー
    父 トマーシュ・シュライ
    オンドラ ロマン・ブルマイエル
    イジー マルチン・ヴェセリー
    コルネル ヴォイチェフ・ブラフタ
    ベトル ヴィクトル・クズニーク
    トニ パヴェル・チェニェク・ヴァツリーク

    ドラマターグ ミラン・ショテク
    美術 アントニーン・シラル
    衣装 ズザナ・フォルマーンコヴァー
    音楽 ヤクブ・クドラーチュ
    英語字幕翻訳 ヤロスラフ・ユレチュカ、マルチナ・ナーフリーコヴァー
    日本語字幕翻訳 広田敦郎
    言語協力 エヴァ・スポウストヴァー
    美術助手 テレザ・ヤンチョヴァー
    演出助手 ヴィート・コジーネク
    衣装助手 ユリエ・エマ・ルージチュコヴァー
    制作 ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー

    通訳 時田曜子(英語)、吉田真由子(英語)、伊川久美子(チェコ語)、豊島美波(チェコ語)
    舞台監督 八木清市
    技術監督 友光一夫
    舞台・照明・音響操作 新国立劇場技術部、シアターコミュニケーションシステムズ、アート・ステージライティング・グループ、フリックプロ、本庄正和(舞台)、今江友昂(照明)、工藤尚輝(音響)、滝内康太(映像)、鎌田拓寬(大道具)、久保幸司(デザイン)
    制作 村本千晶
    プロデューサー 永田聖子
    芸術監督 小川絵梨子

    主催 新国立劇場
    後援 チェコ共和国大使館
    協力 チェコセンター東京

    2025年5月28日〜6月1日 新国立劇場 小劇場
    2025年6月4日〜5日 フェニーチェ堺 小ホール

  • イキウメ『ずれる』@シアタートラム
    【2025/5/28 14:00〜16:05(途中休憩なし)】

    このところ僕の中では「少し複雑で難しい哲学書」のような印象もあったイキウメの舞台だが、今回は「家族」を軸にした、イキウメらしい作風に戻っていたように感じられた。集大成的な位置づけもあったかも。
    シリアスなテーマだが、笑える場面も多々あり、「深刻でありながらも軽い」質感の舞台。
    スタイリッシュな邸宅リビングの設えは、若干の加藤拓也風味もあり。

    幽体離脱とか、それによって家畜が野生化するとか、まあまあ突飛な設定ではあったけど、家族ならではのしがらみとか、親の無念を子が晴らすための復讐劇とか、わりとリアルに共感可能な設定も散りばめられていて、観やすい。
    閉塞的で密な空気感も印象的だったが、これは、出演者が劇団員5名に限定されていたことも大きかったと思う。

    兄の輝(安井順平)は、弟の春(大窪人衛)の存在に鬱陶しい素振りを見せつつも、実は密かに恋愛感情に近い感覚を抱いていたのではないか?(ただし弟はそれに気づいていないし、兄も自分に戸惑い、苦悶し、押し殺している)…というのが観終わった時の感想。そう考えると色々なことの辻褄が合うような気がして。
    浜田信也さん演じる秘書兼家政夫の山鳥も、輝(というか小山田家?)に対する復讐心を持ちながらも、輝に対しての態度には、そこまでの敵意は感じられず、小山田家に対しての許せない感情はありつつも、輝という1個の人格に対してはむしろ愛情に近いような感覚すら抱いているのでは?というようにも読み取れ…
    作品の裏テーマ的に「人が人を想うこと」みたいなことも忍ばされていたのかも。(深読みしてるだけかも、だが)

    あと、当日配布物が「変形折り加工」のような形で、縦長状の下3分の1くらいを折り返していたのだが、その「折り返し幅」が「ピツエンを差し挟んだ長さ」と(たまたまかもしれないが)同じになるように設定されていたり、折り返した間に同サイズのアンケートやチラシが挟まれてスッキリしていたりと、なかなか工夫されていたのも良かった。


    イキウメ『ずれる』
    作・演出 前川知大

    小山田輝/社長 安井順平
    小山田春/輝の弟 大窪人衛
    山鳥士郎/輝の秘書兼家政夫 浜田信也
    佐久間一郎/環境活動家 盛隆二
    時枝悟/整体師 森下創
    声の出演 薬丸翔

    ドラマターグ・舞台監督 谷澤拓巳
    美術 土岐研一
    照明 佐藤啓
    音楽 かみむら周平
    音響 青木タクヘイ
    衣裳 今村あずさ
    ヘアメイク 西川直子
    演出助手 須藤黄英
    プロップマスター 渡邉亜沙子
    演出郎 成瀬正子
    照明操作 溝口由利子、和田麻里子
    音響操作 鈴木三枝子
    宣伝美術 鈴木成一デザイン室
    写真 水谷吉法「KAWAU」
    俳優写真 平岩享
    舞台写真 田中亜紀
    新作 坂田厚子
    票券 宍戸円
    制作デスク 谷澤舞
    プロデューサー 中島隆裕

    協力 ワタナベエンターテインメント、吉住モータース、Nabura、俳優座劇場、Aプロジェクト、ART CORE、至福団、カンパニーAZA、ステージオフィス、SING KEN KEN、10月17日、ティーユーネクスト、マイド、深雪印刷
    当日運営 保坂綾子(東京)、スタービーイング(大阪)

    主催 エッチビイ株式会社

    【東京公演】2025年5月11日〜6月8日 シアタートラム
    【大阪公演】2025年6月12日〜15日 ABCホール

  • アートひかり『二人で狂う…好きなだけ』@ひつじノ劇場
    【2025/5/10 18:00〜18:45(途中休憩なし)】

    イヨネスコの不条理な二人芝居(厳密に言えば二人以外にも登場人物はあるのだが)を藤枝で。4月に長野でも上演された作品。

    『二人で狂う』という作品に関しては、2002年に利賀村の演出家コンクールで優秀賞を獲った西悟志演出を観ているのだが、その印象が僕の中であまりに強く、西版『二人で狂う』が「ひとつの正解例」として自分の中に存在しており、どうしてもそちらと比較しながらの観劇にならざるを得ない。
    (ちなみに、西演出『二人で狂う』は、テキストを解体して再構成し、繰り返しや入れ替えを行うなど、「戯曲で如何に遊ぶか」を追求したような演出でもあり、当時、観ても話が全く理解出来なかったのだけど、作品に込められた「痛切な叫び」のようなものを肌で感じ、また、すごく訓練された肉体と演技を見せられた気分で、当時「ラヴェルの『ボレロ』のような舞台」と思った記憶がある。なお、西版はYouTubeで観ることが可能)

    仲田氏の演出は、(突飛な部分もあるがそれも含めて)ある意味で模範的というか、イヨネスコの不条理劇というこの戯曲を正しく上演する一例として成功していたと思う。
    「遠くの親戚より近くの他人」ならぬ「遠くの戦火より自分たちの諍い」といった感じな会話が続き、戦争の気配が通奏低音のように響く作品だが、戦争というものの存在感の表し方の処理も悪くなかったと思う。
    要所要所で、とぼけた演出(褒め言葉)が差し挟まれるものの、基本的には「一定のテンションと、一定のスピード感と、一定のエネルギー」を伴った演出で、演じる二人(杉山雅紀、山田愛)の演技も、それに応えるものであったと思う。過剰になりすぎない程度で、でもしかし振り切っていた。

    「達磨?」とか「日本語の歌詞?」とか、舞台設定や選曲が和洋折衷なのが多少、気にはなったが、そのことによるマイナスは少ない。

    一点惜しまれるとすれば、照明効果だろうか。

    ひつじノ劇場の仕様では高望みなことを承知で書けば、「強烈なピンスポが当たる」とか、「シルエットになる」とか、「横明かりで人物が浮かび上がる」とか、そういう照明効果があるとなお一層場面の密度がぐんと上がりそうな箇所がいくつかあった。
    しかし、全体的に地明かりのみで勝負せざるを得ないため、場面の印象がぼんやりとしてしまった気がする。(いわゆる「劇的」な絵作りに限界があって、日常感が残りすぎた印象)
    第三の人物が舞台奥から出てくる場面なんかは、それまでと違う明かりになれば、もっと違う異化効果が生まれて良かったかもな、と思ったり。

    照明面での変化に限界があるならば、身体性か演出で変化をつけざるを得ないと思うので、たとえば、「すごくスローモーションな場面で引き伸ばされた会話が展開される」、「ただグルグルと歩き回りながら会話する」、そういう場面もあっても良かったかも。

    余談だが、幕開きの(それ以後も、ではあるが)山田さんのビジュアルが、弘田三枝子の全盛期(「人形の家」を歌っていたころ)に激似で、「フランス人形みたいで、また新たな一面を見せた!」と、ひとりニヤニヤしてしまったw
    (全盛期の弘田三枝子がピンと来ないと、全く理解できない話…というわけで、弘田三枝子の写真も参考に挙げておくw)


    アートひかり公演
    『二人で狂う・・・・・・好きなだけ』
    作 ウージェーヌ・イヨネスコ
    訳 安堂信也
    演出 仲田恭子

    出演 杉山雅紀、山田愛、姫凛子(ゲスト出演)
    協力 山田あかり
    撮影 安徳希仁、半田武祢夫

    主催 アートひかり
    共催 ひつじノ劇場
    制作協力 一般社団法人ユニークポイント

    2025年5月10日〜11日 ひつじノ劇場

  • こつこつプロジェクトStudio公演『夜の道づれ』@新国立劇場 小劇場
    【2025/4/15 19:00〜21:00(途中休憩なし)】

    三好十郎の戯曲を、柳沼昭徳氏が演出。
    戦後の記憶もまだ新しい日本、深夜の甲州街道、初対面の男ふたりがひたすら歩く。途中で現れ、やがて過ぎてゆく人々が時々登場するも、基本的には男ふたりの会話劇。
    喋り通しというよりは、沈黙の瞬間もあったりして、本当に「夜中に男ふたりで歩きながらの会話」といった趣き。取り留めのない話題ではあるのだが、「戦後」「日本人」などのキーワードを連想させる内容が、巧妙に小出しに出てくる。

    この、「深夜モードの」「戦争の空気がまだ残る時代の」「男ふたりの取り留めのないの会話」という設定に、スッと入っていけるかどうかで、舞台への集中や感想は、かなり変わってくると思われる。珍妙な人たちとのやり取りはあるのだが、すごく劇的な事が起こるわけではなく、印象としては「歩き続ける『ゴドーを待ちながら』(もはや、待つというより向かって行く感じ)」。
    上演時間は約2時間なのだが、「あっという間」感はなく、良くも悪くも「長い」印象。ラストに向かっていく感じは、この「長さ」があればこそ活きる感じもするけれど、途中まで(特に前半)は、長さが気になってしまった。長いというより、停滞している感じが続く印象。

    演出は、おそらく原作に忠実な感じで、見せ方に対しては、こだわりが感じられるというか、丁寧に稽古を積み重ねたことが垣間見える。
    ただ、セリフの扱いは少し気になった。何を言っているのか上手く聞き取れないセリフ(感覚や感情先行型の吐き出し系)が、わりとちらほら見受けられ、「三好十郎的な身体の感覚は意識できているのかもしれないが、セリフを聞かせることへの意識が少し希薄」に感じられた。もう少し、俳優たちもセリフを味わいながら喋ってほしいというか、しっかりと語っていただきたい。
    外側への意識が強いぶん、その時の身体性とか身体の感覚といった内側の意識が、うまくアウトプットできていない感じ。「語る前に発散しちゃう」みたいな。(演出も、セリフの言い方に対してのディレクションはそんなに無さそうな感じ)

    そして、演出上、「シチュエーションをどう見せるか」への意識が強すぎたのかもしれない。
    たとえば、舞台装置として、キャスターのついた可動式の大木が1本出てくるのだが、それの扱い方・処理の仕方は工夫されているものの、そこで終わってしまった感覚も。

    そんな中、主役の男のひとり、柳橋役の石橋徹郎さんはセリフも明瞭で「さすが文学座!」である。あと、今回の役どころのせいか、あるいは顔立ちが似てるせいか、「長塚京三」風味も醸し出されていて、それが作品に合っていた。

    原作を読むと、もう少しポップな感覚での会話に感じられ、今回の舞台だと、少しシリアス寄りになりすぎていたのかも。「夜の甲州街道」「戦後日本」のイメージに、引きづられすぎていたようにも思う。


    こつこつプロジェクトStudio公演
    『夜の道づれ』
    作 三好十郎
    演出 柳沼昭德

    御橋次郎 石橋徹郎
    熊丸信吉 金子岳憲
    洋服の男・警官二 林田航平
    警官一・復員服の男・中年の農夫 峰一作
    若い女・戦争未亡人 滝沢花野

    照明 鈴木武人
    音響 信澤祐介
    衣装 山野辺雅子
    ヘアメイク 高村マドカ
    舞台監督 川除学
    演出部 満安孝一、雲田恵、深沢亜美
    大道具 C-COM(伊藤清次)
    小道具 高津装飾美術(西村太志)
    衣裳 東京衣裳(本多あゆみ)
    舞台・照明・音響操作 新国立劇場技術部、シアターコミュニケーションシステムズ、アート・ステージライティング・グループ 、フリックプロ、吉田信夫(舞台)、井崎佑香(照明)、佐藤杏日花(音響)、栗林督英(大道具)
    制作助手 佐藤奈々
    制作 伊澤雅子、七字紗衣

    プロデューサー 三崎力
    芸術監督 小川絵梨子
    主催 新国立劇場

    2025年4月15日[火]~20日[日]
    新国立劇場 小劇場