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演劇界に生きる男の観劇記録

SPAC-静岡県舞台芸術センターで俳優やってます!

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関心あるモノ・コト = 演劇/LEGO/昭和歌謡からJ-POP/字を書くこと/フィギュアスケート鑑賞/温浴施設めぐり/乗り鉄/旅行/睡眠

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物 ―「挫波」「敦賀」―』@穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【2021/6/29 19:00〜21:05(途中15分間の休憩あり)】

KAATでの公演は、キャパシティの小さい大スタジオだったこともあり早々に完売し、連日、当日券は3時間以上前から並ばないと買えないほどだったとか。
リピート観劇の声も聞かれ、知人からの薦めもあり、豊橋公演ではまだチケットが買えたこともあり、こちらで観劇。
上演時間は途中休憩込みの125分で、カーテンコールは盛り上がって4回。

能の様式を取り入れた演出、というか、ほぼ「能」だ。ステージ中央に白いリノリウムで覆われた主舞台があって、下手側には主舞台と舞台袖をつなぐ「橋がかり」、主舞台の奥にはいわゆる「囃子方」である演奏者が数名いて、主舞台の上手には「ひとり地謡」である歌手。
まずワキが登場して物語の概要を伝えると、前シテがやって来て、やがて「近所の人」であるアイと入れ代わり、最後には後ジテが登場してたっぷりと思いの丈の舞を披露…みたいな。
なお、「挫波」も「敦賀」もほぼ同じ手法を繰り返すので、観客はいわば「同じ演出の2作品を続けて観る」ことになる。
「挫波」はシテが森山未來、観光客であるワキが太田信吾、近所の人であるアイが片桐はいり。「敦賀」はシテが石橋静河、旅行者であるワキが栗原類、近所の人であるアイが片桐はいり。

ステージにおける主舞台がそれほど広くないのだが、これはKAATの大スタジオサイズだからだろう。PLATの主ホールでは空間を少し持て余し気味で、その影響のためか音響環境はいまいち(小屋が大きすぎて残響がありすぎるのか、セリフと演奏のバランスが良くない箇所がいくつか)。
主舞台上空には、主舞台と同じサイズとおぼしき天井が吊られ、天井は白い明かりを放っている。
客電は基本的に点いたままで、暗転になるのは全てのラストの1回のみ。その時に非常灯をチカチカ点滅させたのが印象的。
こういった、装置や色味がシンプルな演出は、個人的偏見もあると思うが、少しヨーロッパ的な匂いを感じる。(蛍光灯っぽい白い明かり、とか、ブラックボックスに白いリノリウム、とか)

登場人物たちの動きはいわゆる「チェルフィッチュ」的なのだが、僕の目には、動きの質に2種類の違いがあるように映った。
ひとつは、語る内容とは無関係の、その人の無意識の癖的な動きを増幅させたような質感。
もうひとつは、語る内容の説明ではないのだけど、語る内容から連想されるような、セリフと共鳴するような質感。
後者の場合は、宮城演出の二人一役時のムーバーの動きの質にかなり近いと言える。

今回の出演者では、片桐はいりさんと石橋静河さんはその「セリフ共鳴系」、森山未來さんはそこからの進化系で、よりコンテンポラリーダンスに振り切った「アートまっしぐら系」、ワキのふたりは「日常無意識の癖系」に映った。あくまで個人の主観だが。
ただ、いずれの場合も、コトバとカラダが切り離される状態で、セリフを語りながら動いており、その意味では皆「ひとり二人一役(まぎらわしいw)」とも言える。そして、シテの動きが多様になる時、セリフはシテ自身から七尾旅人さんの地謡へとバトンタッチする印象で、ここはまさに「二人一役」。

演奏は、もちろん現代的ではあるものの、音色などはどことなく鼓の音や笙の音などを連想させる、雅楽っぽさを醸し出す部分もあり。(すべてが生演奏というわけではなく録音と生演奏のジョイントなどもある。)
七尾旅人さんの歌は、エフェクトをかけたり、フレーズを繰り返したりと、どことなくSPACのコロスセリフっぽく聞こえるところもあり。(SPAC関係者用語で言うと「ひとり対位法」「ひとりタペストリー」的なw)

先に述べた動きのテイストや、聞こえてくるセリフのリズム感とかも相まって、なんだろう、作品全体としてすごく「SPACが(宮城演出が)やってることをもっと現代受けする感じの若い感覚でやると、こうなるのかも」と思えたのが印象的。
(余談だが、『敦賀』で後ジテの石橋静河さんが遠心分離機のように回転するところなどは、SPAC『オセロー』でのラストで美加理さんが回転するようであり、作品のそこかしこから受ける既視感たるや!w)

「挫波」とは「ザハ・ハディド氏が設計した、幻となった新国立競技場」であり、「敦賀」とは「一度も運転することなく廃炉への道を辿ることになった、敦賀市に建てられた高速増殖炉もんじゅ」のことであり、どちらも「日本の政治経済界のお偉方たちが見ていたであろう夢の、潰(つい)えた姿」と言える。
成仏できることなく未練を残した、かつての夢が、どうして「志し半ば状態」を迎えなくてはならなかったのか、ということについての考察のような舞台。そしてその考察を、観客にも観劇しながら思考させるような、そういう余白の多い作品。

日本から出された諸条件を元に設計したザハ案が、国際的にももてはやされ、それを目玉にオリンピック招致を勝ち取ったのに、いざというところでちゃぶ台返しにされてしまった経緯はなかなか興味深く、「ザハ案を反故にした日本への国際的評価と、ザハ案を実現させなかったもったいなさ」という点で考察しても非常に面白い。

「もんじゅ」もまた、日本の技術力の不甲斐なさとか、夢を見させられて絶望させられた地元民の想いとか、エネルギー問題が抱える闇の深さとか、そういう視点から問題を捉え直した時にジワジワ来る後味の悪さも、興味深い。

ただ、舞台作品としては個人的にはそこまでハマらず。
しかし、扱った作品の題材、森山・石橋両氏の肉体の興味深い動き、演奏者とのセッション的な「即興風のセリフと動き」を見せた片桐はいりさんなど、作品全体に冴えは感じられた。

また、能は夢うつつな感じで心地よく寝落ちしてしまう瞬間があるが、今回の舞台でもそういう「瞬間的に落ちてしまう」ことが何度かあり、それも含めてやはり「現代能体験」だったと言える。


KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『未練の幽霊と怪物 ―「挫波」「敦賀」―』
作・演出 岡田利規

出演
森山未來
片桐はいり
栗原類
石橋静河
太田信吾
七尾旅人(謡手)

演奏
内橋和久
筒井響子
吉本裕美子

音楽監督 内橋和久
美術 中山英之
照明 横原由祐
音響 佐藤日出夫
衣裳 Tutia Schaad
衣裳助手 藤谷香子
ヘアメイク 谷ロユリエ
舞台監督 横澤紅太郎
プロダクション・マネージャー 山本園子
演出部 高梨智恵美、川上大二郎
照明部 佐藤綾香、山森栄治
音響部 稲住祐平、新妻佳奈
衣裳部 秀島史子
美術助手 三島香子、堀場陸
大道具製作 オサフネ製作所、丸八テント商会
背景 美術工房拓人
面製作 ゼベット
運搬 マイド
宣伝美術 松本弦人
宣伝写真 間部百合
宣伝ヘアメイク 廣瀬瑠美
広報 森明晞子
営業:大沢清
票券:金子久美子
制作 林有布子、小田未希、小森あや
プロデューサー 小沼知子

機材協賛 Roland
協力 precog、スターダストプロモーション、エヴァーグリーン・エンタテイメント、Plage、デューズ、スペースシャワーネットワーク、TASKO inc.、中山英之建築設計事務所

企画製作 KAAT神奈川芸術劇場
助成 文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業) 、独立行政法人日本芸術文化振興会(豊橋公演)
後援 横浜アーツフェスティバル実行委員会(神奈川公演)

2021年6月5日〜6月26日 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
主催 KAAT神奈川芸術劇場
2021年6月29日・6月30日 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
主催 公益財団法人豊橋文化振興財団
共催 豊橋市
2021年7月3日〜7月4日 兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
主催 兵庫県、兵庫県立芸術文化センター

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