劇団山の手事情社『葵上』@小劇場B1(下北沢)
【2026/3/3 19:00〜20:20(途中休憩なし)】

劇団と劇団員たちの「美学」が咲き乱れていた。きちんと訓練し養成された身体感覚や、追究された発語と言葉は、老舗の一流旅館のおもてなしのようでもあり、客席に身を置くことに幸福感をもたらしてくれる。
能の『葵上』と『野宮』、源氏物語の『葵』の巻、瀬戸内寂聴の『女人源氏物語』などをベースにまとめられ、「葵上オムニバス」的な一面もある上演に。ただし、中心線となるのは「六条御息所」の情念と怨念。(著作権の問題のためかどうかは不明だが、三島由紀夫の近代能楽集『葵上』や唐十郎の『ふたりの女』などの派生作品はあえて取り上げず)
また、活動休止前の最後の本公演ということで、劇団活動の集大成的な面も含まれていたようにも見受けられたが、劇団員総出演とはなっておらず、今回の上演会場の規模からしても、(詳細は不明だが)活動休止を最初から見据えて設定された公演というわけでもなさそうではあった。
活動休止もあってか、出演者全員に何らかの見せ場(自身がメインとなる場面)があり、そこが良くもあり悪くもあり。
一つの役を、数人でリレーする形になっており、役柄のイメージが偏って固定されることなく多層的に浮かび上がる良さがあった。特に、「光源氏」は、観客それぞれにイメージする人物像が(ビジュアル的な部分も含めて)違うだろうから、1人に固定しないことが功を奏していたところもある。
その反面、「六条御息所の亡霊」役の山本芳郎さんと「旅の僧」役の川村岳さんだけが入れ替わらない役となっており、しかしこれとは別に「六条御息所」役も複数人持ち回りで登場したことで、作品のフォーカスが少しぼやけた印象になったのも否めない。端的に書くと「ドラマを描きたかったのか、人物を描きたかったのか」みたいな。
そして、創り手の「やりたいこと」「見せたいこと」が詰め込まれすぎていた印象もあったのだが、活動休止前のラスト公演である事を考えるならば、お祭り騒ぎ的になることなく最後まで作品創造に真摯に向き合っており、むしろ潔くあっさりとしていたようにも思えてくる。
作品全体の構成としては、やや難解な面もあるが、文語体と口語体を上手く組み合わせたり、役柄の衣裳が分かりやすくなるよう演出的に処理するなど、見やすくなる工夫は随所に見られた。
衣裳のデザインと布地の質感、髪飾りを含むヘアメイク、光と影を活かした照明などは、「こちらが美しいと思うものを提示」してくれ、様々な面で「美」を味わせてくれた。衣裳さばきの上手さも然り。ポージングのフォルムも然り。
特に、女優陣が皆、麗しい。ビジュアル的にという意味にとどまらず、佇まい、見せ方、表情、セリフなど、どの演者も「おおっ!」と思わせる瞬間が何度もあった。男優陣は初日ということもあってか、全体的に少し力みも見られたが、しかしこれは、回を重ねると落ち着くものと思われる。
作品そのものは、まだ削り出したばかりの原石のようでもあるが、そこに「劇団としての信念と歴史」が確かに感じられ、観ていて清々しい公演だった。見届けられて良かった。
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