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演劇界に生きる男の観劇記録

SPAC-静岡県舞台芸術センターで俳優やってます!

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世田谷パブリックシアター主催公演『みんな鳥になって』@世田谷パブリックシアター
【2025/7/15 12:30〜16:00(途中20分間の休憩あり)】

上演時間は休憩込み3時間半の、超絶社会派の大作。
「ユダヤ人とアラブ人」という「民族版・ロミオとジュリエット」のような展開で始まり、第二次世界大戦でのホロコースト、中東情勢、民族紛争、自爆テロ、国家間の対立など、「民族というアイデンティティ」の問題が、深く、濃く、描かれていく。
本作は、コロナにより招聘を断念したが、2020年にSPACが招聘予定だったワジディ・ムワワド(ワジディ・ムアワッド)作・演出『空を飛べたなら』の日本上演版。日本版で一連のムワワド作品を演出している上村聡史氏が今回も演出。翻訳は藤井慎太郎氏。
(2020年かそのあとに、SPACが招聘できていたら良かったのに…とつくづく悔やまれるところ)

↓空を飛べたなら:ふじのくに⇄せかい演劇祭2020↓ https://share.google/c1MDRKa2tj0Ax9bml

また、世田谷パブリックシアターで2017年と18年に上演された日本人版の『岸』についても、SPACではワジディ演出のオリジナル版を2010年に『頼むから静かに死んでくれ』という邦題で招聘している。
↓頼むから静かに死んでくれ:SPAC 春の芸術祭2010↓ https://share.google/VdAWKFLRS5HUvNlGo

『みんな鳥になって』に話を戻すと、とても意欲的な作品だし、座組一同、真摯に取り組んで創作されたであろうことも伝わってくる。出演者もおそらく、演出の要求に十二分に応えている。作品としては充分及第点。

でも…やはり「日本人で演じることの限界」も、感じずにはいられない。
他民族(他国)が抱えてきた歴史というのは、当然ながら、知識で理解するだけでは及ばないところもあり、「当事者でないと醸し出せない部分」というのが少なからずある。
(それはある意味では、能や歌舞伎なんかにも言えることだろうし、別の意味では、日本人であっても中東で生まれ育ったのなら醸し出せるものがある、とは思う。「血」の問題ではなく、「環境」の問題)

それでも、『レオポルト・シュタット』とか『アンネの日記』のような、ある民族(ある一族)に焦点を絞った作品なら、日本人でも成立しやすいように思うが、今回の作品は、作品が扱おうとしている問題があまりにも広範囲で、(少なくとも)今の日本人が置かれている状況からは、相当に距離があると思う。
(かつて、新劇が「西洋人の真似をしているだけ」と言われたことに、少し似ているかもしれない)

従って、この作品を「一つの作品として観る」ことに限って言えば、「どうせならワジディ演出版で観たいよね」となるだろうし、オリジナル上演では、複数の言語、複数の民族が登場する作品を、全員日本人で上演するならば、やはり何らかの仕掛けや見せ方が必要と思う。

もっと言えば、おそらくワジディとかなり近い関係であるはずのSPACではなく、世田谷パブリックシアターが日本版を上演していることに対して、いろいろと思うところはあるが、それについては割愛w

戯曲に関しては、(これはまあ、僕個人がワジディ作品にあまり興味を持てないから、というだけかもしれないが)日本人で上演する「面白さ」「良さ」みたいなものを、ちょっと感じにくい作品のように思えた。
そもそも論として、台本が、少し言葉で説明し過ぎな気もしていて、しかも、語られる言葉が少し自己陶酔気味で、極めて詩的であり、エモーションをのせすぎると却って耳に入って来づらく感じた。
このあたりは、シェイクスピアの言葉の扱いに、少し似ているかもしれない。ヨーロッパの俳優は、そういうセリフの扱いはホントに上手いと思うが、日本人は日本語の文法が異なることもあって、やや不得手に感じられる。

セリフは、登場人物たちそれぞれに、長セリフがかなりあり、独白シーンや一方的に喋るシーンが多い。
そうなると、対話による積み重ね的な分量より、個人落としの分量が増え、「自分で色々と組み立てる作業」が多くなるわけで、結果として、各俳優の経験やスキルが色濃く出やすくなる。しかし、当然ながら各俳優の演技観はプロデュース公演だとバラバラになりやすく、ここに、プロデュース公演の弊害が露呈してしまう。
つまり、演出としては統一感があるのだが、各俳優の「言葉の扱い方」とか「感情の重ね方」みたいなものは、やっぱりどうしても俳優の個人差が見え隠れして、統一感に欠けてしまう。
(ただし、これは、俳優の問題というよりは、戯曲選定やキャスティングをはじめとするプロデュース側・企画側の問題だと思う)

本作の場合、もちろん色々な民族が登場するし、非常に強烈なレイシストの役柄もあれば、それに抗う立場の役柄もあるので、その点ではバラバラでも良いのだが、一般的なリアリズム作品とは違う言語感があり、「言葉(発語)をどう扱うか」が作品にかなり影響してくるはず。
そのため、おそらく「発語における特殊性の共通見解」(「ワジディズム」とでも言おうか)が必要になる気がするのだが、そのあたりの物足りなさを感じてしまった。
(ただ、各俳優単体で見た時の演技に対しては、不満はない)

個人的には、エトガール役の相島一之さんが真実を告白する時ぐらいの、淡々とした感じのほうが、この戯曲には(そして日本人の演じ手には)合っているように思えた。
エイタン役の中島裕翔さん、全体的には悪くなかったんだけれど、ラストの長セリフの前半は、もっと抑えても良かったか。その方が、後半の飛び立っていく感じが活きてくる気がする。
ダヴィッド役の岡本健一さんは、アラブ人に対する侮蔑がもっと過剰に出ても良かったかも。言葉では強烈に罵っているのだけど、そこまで卑下・敵視している感じには見えず。

松岡依都美さん演じる女兵士エデンの役は、なかなか難しい立ち位置というか、「ジェンダー」だったり「ボーダー」だったりを象徴する存在なのだろうけど、登場する理由の説得力や必然性が弱く感じてしまった。これって、僕が日本人だから(理解が及んでいないだけ)なのか、戯曲の書き込みが弱いからなのか、どっちだろう。

舞台美術は、もっとシンプルでも良かったのかも。少し意味ありげな雰囲気を醸し出し過ぎた気がしなくもない。背景となる瓦礫っぽいシルエットも、説明しすぎてしまった。まあ、日本人には少し説明的な感じくらいでちょうどよいのかもしれないが。

…というわけで、あくまで僕個人としては、なんとなく「帯に短し襷に長し」的な印象が否めない上演だったけど、出演者全員、「この人が出てるなら観てみたい」という俳優ばかりだったので、「各俳優を堪能する」という点ではたいへん満足。各出演者の推し活としての観劇ならば、不満はないと思う。

…と、ここまで書いてみたけど、もしかするとこれは、「作品で語られている問題や悩みを、表層的にしか捉えることが叶わない、日本人としての自分に対しての不満」から来る感想なのかもしれない…とも思う。
どうしたって「すごく理解する」ことはできない。そんな「すごく理解する」ことができない世界が、この地球上には確かにある。それに気づくための日本版上演…?

東京公演のあとは、兵庫、愛知、岡山、福岡でも上演。
ただし、正直なところ、東京以外の会場は、作品に対して小屋の空間が大きすぎる気がする。


世田谷パブリックシアター主催公演
『みんな鳥になって』
作:ワジディ・ムワワド
翻訳:藤井慎太郎
演出:上村聡史

エイタン(ユダヤ系ドイツ人の青年):中島裕翔
ワヒダ(アラブ系アメリカ人の女性):岡本玲
エデン/若いレア(エデン:イスラエルの女性兵士):松岡依都美
レア(エイタンの祖母):麻実れい
ノラ(エイタンの母):那須佐代子
エトガール(エイタンの祖父):相島一之
ダヴィッド(エイタンの父):岡本健一
ワザーン/看護師/ウェイター/ラビ/医師/若いエトガール/テレビの声:伊達暁
テレビの声:近藤隼

[岡山・福岡公演]
エデン/若いレア(エデン:イスラエルの女性兵士):渡邊真砂珠

美術:長田佳代子
照明:佐藤啓
音楽:国広和毅
音響:加藤温
衣裳:半田悦子
ヘアメイク:川端富生
演出助手:渡邊千穂
舞台監督:大垣敏朗
プロダクションマネージャー:勝康隆
ヒストリカル・アドバイザー:ナタリー・ゼモン・デイヴィス

演出部:渡邉亜沙子、髙橋大輔、田辺雪枝、本村春子、山本有子
照明部:溝口由利子、畠山聖、松本亜未、渡辺槙
音響操作:遠藤瑞子
ヘアメイク部:根布谷惠子
美術助手:小島沙月、秋友久実
制作助手:山下茜

大道具:C-COM、伊藤清次、美術工房拓人、松本邦彦、大類弦
小道具:高津装飾美術、西村太志
被り物製作:窪田由紀
電飾:コマデン、福冨健司
照明:A PROJECT
衣裳:東京衣裳、溝口貴之、小川和美、高坂絵莉香、丸山弥子
衣裳製作:篠田利夫、佐藤美香
履物:アーティス、萩原惇平
運搬:マイド
作家契約代理店:シアターライツ
ヘブライ語指導:ディラ国際語学アカデミー

協力:梅田芸術劇場、エヴァーグリーン・エンタテイメント、エンパシィ、COME TRUE、ゴーチ・ブラザーズ、シス・カンパニー、STARTO ENTERTAINMENT、文学座、UAM、吉住モータース

宣伝美術:秋澤一彰
宣伝写真:山崎伸康
宣伝スタイリスト:ゴウダアツコ
宣伝ヘアメイク:FUJIU JIMI、千葉友子
宣伝:る・ひまわり(金井智子、関真恵、小越結)
宣伝動画作成:和田萌、宝隼也
記録写真:細野晋司
記録映像:松澤延拓

広報:宮村恵子、佐藤希
営業:下島智子
票券:竹澤由美子、上谷梨恵、松田聡子
制作:田辺千絵美、豊島勇士、佐々木裕子
プロデューサー:浅田聡子

[世田谷パブリックシアター]
芸術監督:白井晃
劇場部長:滝口健
技術部長:福田純平
世田谷文化生活情報センター館長:高萩宏
公益財団法人せたがや文化財団理事長:青柳正規

主催:公益財団法人せたがや文化財団
企画制作:世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区
協賛:SIS company、東邦ホールディングス、TOYOTA
協力:東急電鉄株式会社、ケベック州政府在日事務所

2025年6月28日〜7月21日 世田谷パブリックシアター
【主催:公益財団法人せたがや文化財団】
2025年7月25日〜7月27日 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター】
2025年8月1日〜8月3日 東海市芸術劇場 大ホール
【主催:メーテレ、メーテレ事業】
2025年8月8日〜8月10日 岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
【主催:公益財団法人岡山文化芸術創造】
2025年8月15日〜8月17日 J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【主催:サンライズプロモーション東京】

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