日本テレビ放送網株式会社『氷艶 hyoen 2025―鏡紋の夜叉―』@横浜アリーナ
【2025/7/5 16:30〜19:25(途中25分間の休憩あり)】

簡単に言うと、岡山に伝わるもうひとつの桃太郎「温羅(うら)伝説」を、アイススケートの世界でミュージカル化した作品。台本は末原拓馬氏、演出は映像でお馴染みの堤幸彦氏。
温羅伝説というのは、吉備王国(桃太郎でいうと鬼ヶ島)と大和朝廷(桃太郎でいうと桃太郎と犬・猿・雉)の対立を描いていて、鬼(温羅)は悪者ではなく(渡来人という説もある)、大和朝廷が吉備王国を支配下にするために差し向けた刺客が、桃太郎にあたる「吉備津彦」と、犬・猿・雉にあたる3人の家臣…という、岡山人にとってはわりと馴染みのある物語。(今回はここに、「自分のなかの正義が逆転していく」要素も入れ込み、現代の社会情勢にも通じる世界観にアレンジがなされていた)
これを、岡山出身の高橋大輔さんが演じ、しかも演劇としてスケートリンクでやるのだから、岡山人としても、フィギュアスケートファンとしても、まあ見逃せない。
まず、LUNA SEAのギタリストでもあるSUGIZOさんの楽曲がとても良い。本作の世界観を見事に音楽面で立ち上げていた。サントラが売られていたら、間違いなく買っていたと思う。
しかも、かなりの場面で、ギター、あるいは、ヴァイオリンを、舞台奥のバルコニー装置の上で生演奏し、もうほとんど裏の主役w
カーテンコールではスケート靴を履き、ほかの出演者と共にリンク上へ。普通に難なく滑っていらした姿も良き。
「呼ばれて来た大物特別ゲスト感」は皆無で、作品のコンポーザー、クリエーターとしての立ち位置感と作品への愛情に溢れており、SUGIZOさんが果たした役割はあまりに大きい。いやー、SUGIZOさん素晴らしすぎる。
(出演者には、相当激ムズなメロディーを提供していたけれどw、皆、歌いこなせていたのもスゴい)
照明は、もう少し演者を明るくしても良かった気もするけど、場面場面の雰囲気を演出するという点では、とても良かった。
ぱっと見だとドローンのようにも見える、ワイヤーで吊られた球体のような無数のLEDライトが、蛍になったり、魂になったり。点き方や消え方もそれぞれの場面に合っていて。
レーザービームも多用され、クライマックスでは火炎の特効もあり、音楽のコンサートやライブでは日常的な演出なんだろうけど、普段そういうものに一切出向かない身としては新鮮な体験w
あと衣裳も、それぞれの役柄と衣裳がとてもマッチしていて、さらに演者も自分の衣裳を使いこなしていて、これまた良かった。中でも、犬(島田高志郎)・猿(田中刑事)・雉(財木琢磨)は色んなこだわりが衣裳から感じられ、素晴らしすぎた。
メインの役だけでなく、アンサンブルや子役の出演者の衣裳もよく練られていたと思う。
当然ながらスケートでなびくことも考慮されており、立っていても、動いていても、絵になる衣裳。
インパクトのある登場退場には、フライングの演出。
ただし、僕が観た回は、後半からはフライングの演出が取りやめになったもようで、増田貴久さんや高橋大輔さんのフライングは見られなかった。
オペラグラスで見ていた限りでは、吉田栄作さん演じる影帝がフライングでの退場予定のとき、アンサンブルメンバーが吉田さんのハーネスにワイヤーを付けるのに手こずり、結果的に付けられず退場を急遽変更したように見えた。(衣裳をしきりにゴソゴソしていたので、ワイヤーを引っ掛ける所が見つからなかったのかも)
出演者も総じて適材適所というか、もはやスケーターと俳優の差がほとんど気にならないレベルで、「演技の上手いスケーター」と「スケートの上手い俳優」が共演。
吉備津彦役の増田貴久さん(まっすー)は、歌が文句なく上手いのは当然ながら(NEWSが3人になるくらいまではわりと拝聴していた)、スケートも、バックで滑ったり、急ブレーキをかけて身体の向きを変えたり、わりとスピーディーに滑ったりしていて、元々器用だったり、身体感覚が優れているところもあるんだろうけど、努力家なんだろうなと思えた。
相手役となる温羅役の高橋大輔さん(大ちゃん)との、バランスや相性が良かったのも大きいかも。
役柄上、饒舌に喋る設定ではないが、役柄の持つ悲哀みたいなものが身体から感じられ、歌声がちょっとかすれ気味な感じなのも役柄に合っていた。(役作りでかすれさせていたのか、乾燥で不本意にかすれてしまったのかは分からないけど)
ちなみに、まっすーがアリーナの客席通路を歩きながら歌う演出があり、目の前に現れたまっすーを、驚きで口に手を当てて目を丸くして見ている観客(おそらく、まっすーファン)の様子も、ついオペラグラスで観察してしまったw
一方の大ちゃん(トリノ五輪の選考くらいから大体のプログラムはテレビで拝見してた)、身体表現や表情、歌声(ソロ歌唱やまっすーとのデュエットも)、言葉にならない叫びなどは、文句無かったのだけど、いかんせん発声が厳しい。
全体的にちょっとゴニョゴニョ喋りがちというのもあるかもしれないけど(元々滑舌はあまり良い方ではないと思う)、マイク付けてるのに声が聞こえない(拾えない)のは、おそらく、息が相当漏れてるというか、「全部の息を音声化に使えていないのでは?」という感じ。(あれだけ滑るのだから肺活量には問題ないと思う)
長セリフがあったのもかえって悪目立ちしてしまった感もするし、「心優しい役柄=穏やかに喋る」みたいになっていたのも一因かも。
たぶん本人の資質的に、今回みたいな「シリアスで、しかも鬼と化して葛藤するような役柄」ではなく、明朗なキャラクターの役のほうが合ってると思うんだよね…
温羅の理解者である八雲役の福士誠治さんは、これまでのキャリアで培った実力をいかんなく発揮で、抜群の安定感。こういうステージでのセリフの発し方や聞かせ方も心得ている感じだし、スケートも普通に滑れるし、歌もいい。(もっとブレイクしていい存在なのに!)
八雲の妹で、温羅の婚約者である阿曽媛(あぞめ)役は森田望智さん。中学生になるまでフィギュアスケートをやっていたそうなので、滑りは問題なく、なんなら大ちゃんとアイスダンス的なデュエットを披露するほど。
惜しまれるのはセリフ。大ちゃんと同じく、吐息と一緒にセリフを喋りがちで、彼女の持ち味である柔らかい感じの発声が、まだ舞台向きではない感じ。
だから大ちゃんとふたりのシーンだと、ふたりの雰囲気は良いのだが、語られている内容は漠然としか伝わらず…もちろんマイクは付けているのだが、吐息系の発声との相性は良くなく…
雉こと留玉臣命(とめたまおみのみこと)役の財木琢磨さんもたいへん良かった。中性的なキャラで、吉備津彦の家臣のリーダーポジションで、観ていて飽きないというか、もっと観たくなる存在。
演じ方がワンパターンにならないところが良い。セリフも明瞭だし、所作もキレイ。どことなく福士誠治さんっぽい感じ…というか、この役が少し福士さんっぽいのか。(福士さんが演じても違和感ない)
その財木さんの影響か、犬こと犬飼健命(いぬかいたけるのみこと)役の島田高志郎さんと、猿こと楽々森彦命(ささもりひこのみこと)役の田中刑事さん、このふたりの演技はスケーターの域を超えており、こんなに演じられると思っていなかったので、意外性もあってとても良かった。
キャラクターを演じるのはもちろん、セリフも棒読みではなく聞き取りやすく(セリフに限って言えば大ちゃんより全然良い)、コミカルもシリアスもイケる。
温羅の家臣、千秋(せんしゅう)役の青山凌大さんも好演。歌声も聴かせるし、滑りも魅せてくれた。
なお、朝ドラ『虎に翼』では森田望智さんの息子・直人役だったので、朝ドラファンにはたまらないキャスティングw
影帝の吉田栄作さんは、それほどは滑らなかったものの、まさかのソロ歌唱あり。しかもこれが、わりと難解なメロというか音取りで、「ラップか?」みたいな、演奏と歌が合っているのかズレているのか、よく分からないような楽曲。(たぶんズレてはいないw)
歌手デビューからしばらくの間、CDを買っていた身としては、「まさか栄作の歌声をここで聞けるなんて!」という思わぬ感激ポイント。
祈り女こと幽(かすみ)役の村元哉中さん、セリフは無く、白く発光する球体を持って、鎮魂しながら滑る。
そういえば、如月小春作品に、こんな存在の、白い人が登場してたっけ…なんて思ってみたりw
荒川静香さんは、スピンとかイナバウアーなども披露。最終的には大ちゃんを襲うような役柄で、いわゆるラスボスのひとり。戸田恵子さんの録音セリフに合わせて口パクするという、いわゆる「二人一役」的に言うとムーバーポジションで、別に口は動かさなくても成立するのに…とは思ったけどw
あと、トリノの代表ふたりが20年後にこんな形で共演してるなんて…という、別の感動も。
もうひとりのラスボス、闇呑神(やみどんのかみ)の市村正親さんは映像での出演。さすがの存在感なのだが、映像演出のせいか、いかんせんかなりクドい。(舞台演技をテレビで見る感じに近い)
あんなに顔のアップを長々と投影し続けなくても良いだろうに。どうしたってモニター映像のほうが、リンク上の演者より大きいので、ずっと映し出されているとちょっと食傷気味に。
まあそもそも、今回、映像演出はイマイチというか、大河ドラマのCG処理とかに比べると少し大雑把な(荒い)印象で、ほかの演出に比べて細部が若干チープだったかも。(予算か時間が足りなかったのかな?と思ってしまう感じ)
グッズ売り場の「入国審査のパスポートコントロール」みたいなシステムとか、休憩時の女性用トイレ待ちの半端なく長蛇の列とか、館内の自販機の強気な値段設定とか、一目でまっすーファンと分かる「ネコます(まっすーの創作キャラクター)」を身に着けた人たちとか、初・横浜アリーナの身としては、色々と初めて目にするような光景も多く、実に興味深かった。(おかげで、空き時間についウロウロしてしまったよねw)
そんな感じで、フィギュアスケートの現場にも、横浜アリーナにも行ったことがないのに、軽い気持ちだけで今回来てみたのだけど、なかなかどうして、見応えのある立派なステージに仕上がってた。
フィギュアスケートファン、増田貴久ファン、SUGIZOファン、その他の出演者ファン、演劇ファン、それぞれが、推しの新たな一面を知り、推し以外の出演者の素晴らしい一面を知り、相互に自分の推しを誇りに思え、相手の推しを尊重できるような、そんな企画になっていたと思う。
チケット代は高かったけれど、それだけのものは観られた。(ひとつの場面からの情報量がさすがに多すぎて、全ての要素を1回で咀嚼しながら観るのは大変だったけど)
日本テレビ放送網株式会社
『氷艶 hyoen 2025―鏡紋の夜叉―』
脚本:末原拓馬(おぼんろ)
演出:堤幸彦
温羅:高橋大輔
吉備津彦:増田貴久
鉄の女神:荒川静香
八雲:福士誠治
幽:村元哉中
楽々森彦命:田中刑事
犬飼健命:島田高志郎
留玉臣命:財木琢磨
千秋:青山凌大
阿曽媛:森田望智
影帝:吉田栄作
[スペシャルゲストアーティスト]演奏:SUGIZO
[特別映像出演]闇呑帝:市村正親
[特別音声出演]鉄の女神:戸田恵子
アンサンブルスケーター:松橋浩幸、橋本誠也、小沼祐太(Prince Ice World)、吉野晃平(Prince Ice World)、松浦功、塚本啓司、大島光翔、木科雄登、佐々木晴也、佐藤由基(Prince Ice World)、門脇慧丞、小田垣櫻、西田美和、中西樹希(Prince Ice World)、占部亜由美
アンサンブルキャスト:亀井翔太(BLUE TOKYO)、大舌恭平(BLUE TOKYO)、有木真太郎、松岡歩武(TOK¥O TRICKING MOB)、藤田朋輝(BLUE TOKYO)、松田陽樹(BLUE TOKYO)
丹羽遥珂、日髙晴久、藤本東馬、渡邊由良
音楽:SUGIZO
クリエイティブ・ディレクター:モモナガシマ
振付・所作指導:尾上菊之丞
振付:宮本賢二、村元哉中
ステージング:生島翔
振付(尾上菊之丞)助手:五條珠太郎
「氷艶」ネーミング:坂本愛
「氷艶」題字:平野静暁
演技指導(スケーター):福士誠治
スケートアドバイザー:薄田隆哉
スケート指導(俳優):橋本誠也、小沼祐太(Prince Ice World)
歌唱指導:長谷川開、潤豊
衣裳デザイン:三浦洋子(アトリエ88%)
衣裳製作進行:堀内真紀子、川島加菜果
衣裳製作:堀内真紀子、中埜愛子、金子里華、泉田まゆみ、春木里華、佐藤瑤子、梅津佳織、上原絵里奈、中川明香、加藤澄江、鶴岡真奈美、塚本かな、富永美夏、アトリエ88%
ヘッドドレス:金子里華
染色・テキスタイル:三浦洋子
衣裳進行:梅田和加子、伊藤優理、種本依里子、近藤知子、懸樋抄織、小林瑞穂、大窪真
衣裳協力:小川峰株式会社、サトーサンプリングルーム、サンプリーツ、STP factory、羽美
髭協力:プロピア
スパイクシューズ:SECESSION
アートディレクション・デザイン:原島直子 (RAM)
ヘアアーティスト:INOMATA, KOO SATO(&’s management)
メイクアップアーティスト:Mio (SIGNO)、sachi
ヘアメイクアップアーティスト(アンサンブル):栢木進
ビジュアル制作コーディネイト&マネジメント:稲冨美紀 (SECESSION)
映像ディレクター:髙橋洋人
音楽制作プロデューサー:茂木英興
音楽制作協力:植田能平
マニュピレーター:d-kiku
舞台美術ビジュアルデザイン:小林直貴(日本ステージ)
照明プランナー:高橋邦裕(東京舞台照明)
音響デザイン:佐藤日出夫、中尾憲嗣(SCアライアンス)
映像協力:ジャパンアクションエンタープライズ
収録技術:小林宏義、船越正道、佐々木賢(日テレ・テクニカル・リソーシズ)
演出助手:竹内彩(H9 plus)、松森望宏
舞台監督:神力謙(MOMOX)
舞台監督補:柏本詩帆、渡邉野乃花、田中倫子、山田和希、並木勝道、三川順、片山徳三、斎藤幹
舞台制作:田島大志
舞台制作補:中林彩
衣裳制作進行:吉元あおい、茶畑由紀、小野涼子
アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太
アクションコーディネーター助手:東慶介、宮川連
フライングコーディネート:B.O.S-FLYING
フライングコーディネーター:下川真矢、岩上弘数
スケートリンク設営:パティネレジャー
トラス施工・美術:日本ステージ
会場設営、装飾、備品:パンセイ
映像制作・出力:レイ
PREVIS:team VisCOM
小道具:高津装飾美術
照明:東京舞台照明
DOTIMAGE:ISA
音響・音響効果:SCアライアンス
レーザー:FUN WINGS
フライング:B.O.S-Entertainment
マーカーライト:新光企画
特殊効果:HOTSHOT
トランポ:SCUD Inc.
電源:三穂電機
製作協力:福冨薫(オフィスクレッシェンド)
制作協力・運営:徳永美樹、岡野孝宏、大木武史、小田遥香、 内田夕香子、江口航平(セイムトゥー)
制作協力:吉越萌子、児玉奈緒子(MAパブリッシング)、山内未央、間宮春華、長浜あかね
リハーサル協力:エフ・オー・ビー企画
警備:協栄
主催:日本テレビ放送網株式会社(関川悦代、遠藤正累、松村英幹、福井雄介、錦織早都美、関谷亜希、片山知香子/澤桂一)
主催・企画・製作:株式会社ユニバーサルスポーツマーケティング(豊原絵梨子、間瑛子、大濱航至、原田雄介、大橋加苗)
後援:公益財団法人日本スケート連盟
特別協賛:日本郵政株式会社
協賛:スカイコート株式会社、株式会社アペックス
2025年7月5日〜7日 横浜アリーナ
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