劇団温泉ドラゴン第19回公演『痕、婚、』@中野 ザ・ポケット
【2025/3/20 19:00〜21:05(途中休憩なし)】

関東大震災の2年後の、とある下町を舞台に、朝鮮人虐殺の加害者と被害者の問題に切り込んだ作品。ある意味「令和の井上ひさし」感のある劇作。
「人種差別」という言葉だけでは片付けられないような、複雑に絡み合った問題が描かれていて、「集団心理」とか「同調圧力」とか、そういった言葉も浮かんでくる。喉元に刃物を突きつけられるような、そんな重いテーマの作品なのだが、ときおり見え隠れするコミカルな場面の挟み方も、ある意味「井上ひさし」的。
(それにしても、骨太な社会派の小劇場系の舞台が最近増えてきたような気もするのだが、これも時勢なのだろうか)
建て込まれた日本家屋の居間と裏庭を舞台に物語は展開。場面転換の仕方が、ある人物や道具にスポットが当たったまま、薄明かりのなか行われるのが印象的。(完全に暗転した状態での転換も何度かある)
食事の場面が何度か出てくるが、テレビドラマのように本当にご飯やおかずが出てきて、それを食べながら演技しているのも印象的。「本当に食べることによって生まれる何か」があるのだろう。
物語の終盤、それぞれに秘密を抱えたまま、妻を病気で失った洋裁店店主の友久(いわいのふ健)と、住み込みで働き始めた麻子(山﨑薫)は再婚することになる。実は麻子は朝鮮人であることが判明するのだが、周囲の人間は彼女の素性を快く受け入れる。
だが、婚姻届を提出して戻ってきた祝いの席で、「麻子の婚約者が朝鮮人虐殺で殺されたこと」「その婚約者を殺したのが友久たの自警団であったこと」「友久をはじめとする周囲の人間が虐殺の事実を黙っていたこと」「麻子ははじめから全てを知っていて住み込みで働き始めたこと」などが明らかになる。ほかにも、それまでの場面でちらっと触れられていたような色々なことが、このクライマックスで、線となって繋がっていく。
事実をつまびらかにしようとするもクビとなってしまう新聞記者や、元軍人で朝鮮から連れ帰った猫を飼っている隣人なども絡みながら、それぞれの、遺恨・後悔・愛情などが描かれていく。
ラスト、裁ちばさみで友久を刺そうとするも出来なかった麻子と、刺されることを受け入れようとした友久の間には、文字通り「愛」と「憎」が渦巻いていたと思うが、最後には「愛」が勝ったのだと思いたい。
そして、「あの日」以来、朝鮮語を喋れなくなってしまった麻子が最後に朝鮮語を取り戻したことで、彼女のなかで止まっていた時間や、溜まっていた様々な想いが、雪解けのように流れ始めたのだと、信じたい。
麻子役の山﨑薫さんが出色の出来。リアリズムな演技面もそうなのだが、大正時代な感じとか、セリフが無くリアクションする時の感じとか、日本人に対する複雑な想いとか、麻子という役のアイデンティティの揺らぎみたいなものとか、自分で自分を制御しきれない感じとか、そういうのが押し付けがましくなく、フワッと伝わる芝居をされていて、とても良かった。皆が手のひらを返したかのような態度で麻子の荷物を運び出すなか、「それに動じないよう振る舞う、でもその動揺が少し垣間見える」みたいな時の居方も良く。
男優陣も、いわゆる「二面性」の表現の仕方がそれぞれに違っていて、その差異が上手く作品に活きていた印象。
しかし、公演スケジュールを見ると、この舞台を1日2回やる日が何度かあるのだが、なかなか大変だろうな…と思う。
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