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演劇界に生きる男の観劇記録

SPAC-静岡県舞台芸術センターで俳優やってます!

倉敷幼稚園→粒江幼稚園→粒江小学校→倉敷南中学校→総社南高等学校→大阪教育大学

関心あるモノ・コト = 演劇/LEGO/昭和歌謡からJ-POP/字を書くこと/フィギュアスケート鑑賞/温浴施設めぐり/乗り鉄/旅行/睡眠

東京芸術祭2019(フェスティバル/トーキョー)/芸劇オータムセレクション レッドトーチ・シアター『三人姉妹』@東京芸術劇場プレイハウス
【2019/10/18 13:00〜17:15(途中10分か15分の休憩3回あり)】

全編手話(フェラポント役のみ台詞を喋る)。途中で、10分、10分、15分と休憩が入り、上演時間4時間15分の全幕上演。
スマホが出てきたり、音の響きをスピーカーの振動で共有して踊ったり、現代の設定になっている。また、三人姉妹の家への来客の知らせはランプが点くことで認知しているなど、ろうあ者設定もきちんと守られている。

東京公演にもかかわらず、残念ながら客席が空いている。静岡でやってももうちょっとは入るんじゃないか?というくらい。まあ、金曜の日中だし、観たいと思う層が少ない作品だとは思うけど……

しかし。実際の舞台は、かなり冴えていたと思う。手話になったことにより、「盗み聞きする」「誰ともなく喋る」的な要素が排除され、「どのセリフは誰に向かっているのか」がとても明瞭になっている。

また、セリフの音が無くなったことで舞台上の生活ノイズが際立ち、「声がなくても生活ってこんなにうるさいの?」という愕然とした驚きがある。普段、いかに我々が「言葉」だけを都合よく聞き分けているかがよく分かる。もちろん、今回の舞台上の生活ノイズは相当計算された上で発せられていると思うが。

あと、とても意外だったのが、「芝居を観ている気がしなくなる」こと。ドキュメンタリーとも違うんだけど、「まるでチェーホフの三人姉妹のようなことを繰り広げている、現代のロシアの田舎に住む人たち」を見ているような、セミドキュメント的な空気が、いつの間にか舞台を支配している。「あるロシア人の生体観察」的な。その点においては、ポツドールの「夢の城」の感じに少し近い(内容は全くかすりもしないけど)。

これは多分、舞台の使い方によるところが大きい。あまり客席が意識されていないというか、例えば、皆で食卓につく場面では背中を向けて座る登場人物もいるし、各自の個室が客席から少し見にくい位置にあったりするのに、そこでも普通に演技が繰り広げられているし。(当日配布物には、舞台上の部屋の間取り図&各人物の解説が入っている)
ただ、そのおかげで、中だるみっぽい瞬間や、「この時間、長いな」みたいな場面も、確かに少しはあった。でも、そのあたりも余計に、「観察している」感を強める要因になったのかもしれない。

もうひとつ意外だったのが、登場人物たちの「心の閉塞感」というか、「やりきれなさ」「孤独」「絶望」「現状への不満」が、すごく我がごとのように迫ってくる瞬間が多々あったこと。セリフは字幕で提示されるため、「下手な感情まかせの言葉を聞かなくてよくなり、言葉がスッと入ってくる」という理由もあるだろう。

しかし、きっと一番の要因は、手話の場合、「独り言ならわざわざ手話でやらない」ということだ。手話言語を発するときは、必ず誰かに訴えたり、聞かせたいためだ。独り言なら頭の中で思っていればいいわけだから。
いや、本来なら口に出す言語もそのはずなのだが、演劇においては「心の声をつぶやく」ということに、あまりに慣れすぎてしまっているように思う。
「繰り出される言葉は、必ず自分以外の誰かに伝えるためのもの」。その当たり前のことが、舞台上で徹底されることになるから、非常に観やすいし、「音が聞こえない彼ら」という境遇と相まって、彼らの息苦しさが切々と響いてくるのだ。

つまり、今回の舞台は「誰もつぶやかないチェーホフ」と言える。「ボンヤリしたセリフが出てこないチェーホフ」って、実は初めて観たかも。

あと、ちょっと細かい話だが、「モスクワへ!モスクワへ!モスクワへ!」は、日本語の文法では面白味に欠けることが、今回よく分かった(笑)
「イリーナがノートに書きつける」という体裁で、上の言葉が字幕に1文字ずつ表示されるのだが、英語字幕は当然「To Moscow!」で、先にToと出ることで、「向かいたい、モスクワ!」「行きたいの、モスクワ!」みたいなニュアンスになるけれど、日本語は「モ」から表示されていくので、既にネタバレ的っていうか、何の情緒も無いな、と(笑)

さて、演出は4幕それぞれ、趣向が少しずつ異なっており、各幕のテーマ…というか主題に合わせたものになっているように感じた。
3幕が、ほとんど停電している設定で、懐中電灯で手話が浮かび上がるのも良かったし、4幕の、家具を全部片隅にやって半透明のシートを掛け、舞台を庭先の設定にして、時折、登場人物たちを絵画のように配置するのも良かった。

ラストシーンでは、突如、三姉妹の耳に楽隊の音楽が聞こえてきたのかと思わせる、奇跡が起きたかのような設定(いや、実際は幻聴が聞こえている設定なのかもしれないし、音楽のビートだけが体感で聞こえている設定なのかもしれない。いずれにせよ、ちょっとよく分からないというか、どうとでも解釈できる設定ではあった)も、悪くはなかった。

なお、出演者は本当のろうあ者はひとりもおらず、2年間手話を勉強した健常者とか!いやー、どう見ても、皆さん手話でしか会話しない人のように見えましたけど!?やはり、2年くらいかけないと、極めることは難しいのね(笑)

そして、この舞台は「コンテンポラリーダンス」のように観て楽しむことができる作品かと。手話がほんとに、ダンスの振り付けのように見えてくる瞬間がいっぱいあった。
時間とお金に余裕がある方は、ぜひ観ておくと、何か新しい発見があるように思う。


東京芸術祭2019(フェスティバル/トーキョー)
芸劇オータムセレクション
レッドトーチ・シアター
『三人姉妹』
作:アントン・チェーホフ
演出:ティモフェイ・クリャービン

アンドレイ:イリヤ・ムジコ
ナターシャ:ワレリア・クルチニナ
オーリガ:イリーナ・クリヴォノス
マーシャ:タリア・イェメリャノワ
イリーナ:リンダ・アフメジャノワ
クルィギン:デニス・フランク
ヴェルシーニン:パヴェル・ポリャコフ
トゥーゼンバフ:アントン・ヴォイナロヴィッチ
ソリョーヌイ:コンスタンティン・テレギン
チェブトィキン:アンドレイ・チェルニフ
フェドーチク:アレクセイ・メズホフ
ローデ:セルゲイ・ボゴモロフ
フェラポント:セルゲイ・ノヴィコフ
アンフィーサ:エレーナ・ドリネフスカヤ

●ツアースタッフ
美術デザイン:オレグ・ゴロヴコ
照明デザイン:デニス・ソルンツェフ
演出助手:ナタリア・ヤルスキナ
手話インストラクター:ガリーナ・ニシュク
ろう者文化監修:ヴェロニカ・コポソワ、タマラ・チャトゥラ
字幕操作:イリヤ・クカレンコ、オルガ・フェディアニナ

ツアーマネージャー・通訳:ルスタム・アフメドシン
制作:アレクサンドル・クリャビン
国際・特別プロジェクト主任:イリーナ・クリャビナ
小道具:リリア・ゴンチャレンコ
音響:ティモフェイ・パストゥホフ
照明操作:アンナ・コレスニコワ
舞台監督:アレクサンドル・ベロウソフ
ビデオ操作:ラロスラフ・キセレフ
舞台:イーゴリ・ソロキン、アンドレイ・シェルバコフ、ヴラディスラフ・ストロゴフ
照明:ヴァシリー・フィリップチュク
衣装:ラニナ・ステペンコ
かつら・メイク:リディア・イグナトヴィッチ

●日本公演スタッフ
舞台監督:武藤信弥
照明:西嶋竹春、まえだへとし(株式会社ライトウェイブ)
音響:高山勝己(Nutrocker)
映像:中野一幸(株式会社アルゴン社)
衣裳:竹ノ子博子

通訳:樟山由美、瀬川和子、鈴木庸子
技術コーディネート:株式会社フラワートップ
制作:株式会社インプレサリオ東京

●東京芸術劇場技術・制作アソシエイツスタッフ
技術統括:白神久吉
舞台:奥野さおり、桑原利明、藤田満、加藤唯、坂田有希枝、中村友香
照明:新島啓介、志賀正、高山智弘
音響:石丸耕一、齋藤泰邦、小島慎司

宣伝美術:M!DOR!
記録撮影:後藤敦司
法務アドバイザー:福井健策、岡本健太郎(骨董通り法律事務所)
協力:日向寺康雄、大杉豊

東京芸術祭 芸劇オータムセレクションディレクター:内藤美奈子
広報:前田圭蔵、久保風竹、安田裕美、横川京子、小西萌子
票券:井上由姫、中里史絵
制作助手:橋本奈々美、結城ゆりえ、松岡大貴(アーツアカデミー研修生)
プロデューサー:立石和浩

●東京芸術劇場スタッフ
芸術監督:野田秀樹
館長:荻田伍
副館長:高萩宏
管理課長:鈴木倫之
舞台管理担当課長:白神久吉
事業企画課長:鈴木順子
制作担当課長:内藤美奈子
運営担当課長:島啓之
舞台技術:石丸耕一、新島啓介、奥野さおり、井上武憲、末廣友紀、渡邊武彦、松島千裕、横山萌、安藤達朗
制作:鶴岡智恵子、立石和浩、吉田直美、木村美恵子、古田佳代、黒田忍、小田切寛、橋本奈々美
広報営業:前田圭蔵、久保風竹、奥村和代、井上由姫、安田裕美、中里史絵、小西萌子
経理:山室あまね、中溝慶一
インターン:結城ゆりえ、松岡大貴、大川智史

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場、東京芸術祭実行委員会[豊島区、公益財団法人としま未来文化財団、フェスティバル/トーキョー実行委員会、公益財団法人東京都歷史文化財団 東京芸術劇場・アーツカウンシル東京]
助成:令和元年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業(豊島区国際アート・カルチャー都市推進事業)
制作:インプレサリオ東京
協力:ロシア文化フェスティバル組織委員会

2019年10月18〜20日 東京芸術劇場プレイハウス

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